あ、邦画が見る (ジョニーBB)

32号 ばかばかしい感動

三木聡監督の「インスタント沼」を見た。これまたこの監督のアレなところが深刻化した映画でありました。いやいい意味で。原作付きのものを除けば、「亀は意外と早く泳ぐ」「図鑑に載ってない虫」に続く三木ワールド三作目にあたるこの作品。「インスタント沼」は、なんとなく人生うまく行っていない、日々テンションあがらないという人の、よくある、しかし深刻なドラマである。

ゆるさとバカバカしさで隠されてはいるが、その実わりとスタンダード。スタンダードなドラマではあるが、ふとしたはずみに常識を超えた展開を見せる。この二重三重の裏返し。それが三木作品の特徴だ。前二作より物語が現実的なぶん、今作は三木テイストが顕著に感じられる。だがそれがいい。

現実でよくある、しかしどうにもならない悩みや悲しみ、そういったものを内に秘めた人々が、少し変な人の中で少し変なことをする。現実と変との微妙な境界線をラストでぶっちぎり、なんだか全ての悩みも悲しみもどうということはないように思わせてしまう。なんかもう笑うしかない。これが三木マジック。今回もラスト十分の衝撃は健在である。

悩みの解答を教えてくれるわけではないが、テンションのあげ方は教えてくれる。明日も笑って前に進もう。そう思わせてくれる映画でした。

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30号 呪怨を

友達に「最強に恐ろしいホラー映画はなんだろう」と聞いてみたところ返ってきた答が『呪怨』でありました。それも映画版ではなくビデオ版。ろくにストーリーはないがただただ怖い、という全く救いの無いオススメ文句。この時点でパッケージを手に取ることさえためらわれるという恐ろしさ。ツタヤで棚の陰からその存在だけを確認し、逃げ帰って参りました。うん、怖かった。もう十分怖かったから。 日本の恐怖ものの厄介なところは観ている間だけでは終わってくれないというところである。海外のものはわりとあっさりスタイルで事件が解決すればもう後は引かない。暗い夜道でジェイソンが出てきたら!とか迂闊に眠ってフレディに会っちゃったら!とか大人ならまあまず考えない。

ジャパニーズホラーはそうはいかない。観たものの頭の中に居残り、夜中の玄関先、明かりを消した台所、風呂場、ふと目の端に写る鏡の中、あらゆるところにしゃしゃりでてきやがるのであります。一粒で二度おいしい。冗談じゃねえYO。

観る前からこれだけ怖いのだから実際観たらもうどうなってしまうやら分かったものではないのである。ああ、ヘタレさ!臆病者と呼ばば呼べ。というわけで今回は『「呪怨」を観れませんでした』というコラムをお届けしました。

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29号 空気の魔術師

プリンタが壊れる。DVDドライブがグズリだす。残り少ないディスクに間違ったファイルを焼いてしまう。一つ一つは些細なトラブルだ。しかしなにも締め切り当日、原稿を印刷しようとした時にまとめて起きることはないと思うのですよマイガー。日常は時として望みもしないのにドラマと化す。天はよほど私をドタバタコメディの主役にしたいらしい。

映画素人のジョニーが邦画の楽しさを発見するこのコラム。マイ邦画ブームが始まるきっかけとなったのは山下敦弘監督作品との出会いでした。それまで物語にはメリハリの利いた大事件が必要不可欠であると思っていた。そんな固定観念を打ち崩してくれたのが、山下監督でした。

今回紹介するのは山下監督の代表作の一つ『』。即席のメンツが学園祭でブルーはーツを演奏する。ボーカルは会話もたどたどしい留学生。練習期間は2日間。それだけの物語。日常を超えたトラブルは起きない。それなのに面白い。いや、実生活なら学園祭でバンド演奏をやる、というだけで楽しいはずなのである。だが、そこに大事件を加えずに、リアルの空気だけを素材にして面白い作品に仕上げるのは難しい。それをやってのけるのが山下監督なのであります。人呼んで空気の魔術師。

私の日常にもこの魔術師に監督していただきたいものです。

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27号 緑の粉末に気をつけよう

数年ぶりに回転寿司に入った。そこで初めて粉を溶いて飲む緑茶に出会う。適量がわからずなんとなくドバドバ粉を入れてみたらどろりとした妙な液体が出来上がってしまった。うろたえるのも格好悪いので何事も無かったかのようにそれを飲み、寿司を食べて店を出る。湯飲みの底に残ったヘドロの如き茶カスを見て店員がどう思うかを想像する。寿司屋になんて入るんじゃなかった思うが時は元に戻らない。

生きるということは不可逆反応である。

起きたことは決して消えないし、元には戻らない。コーヒーに砂糖を入れすぎたからといって塩を入れたところで憩いの一時は戻らないのである。法や倫理がどう吠えようと「やっちゃったことは仕方がない」のが現実だ。先に進むしか道は無い。

三木聡監督の「転々」を見た。 「やっちゃった」人間と、たまたま道連れにされたオダジョが吉祥寺から霞ヶ関まで歩くだけの奇妙なロードムービー。起きた事実は消えないが、その後に経験することも同様に消えない。思い出は良くも悪くも重ねることしかできない。だからどうという話でもないんだけどね。三木テイストが異様に馴染む、いい映画でありました。

それはそれとしてあの寿司屋にはこの先半年は近寄る気にもなれないです。

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26号 どんな映画だよ

形の無い形を人は補完して理解することが出来る。映画でも、小説でも、これがあるかないかでその作品から受ける感動は変わってくるのだと最近は思う。

形の無い形とは何か。これは勝手に私がそう呼んでいるだけのものなのだけれど、直接的な表現がないのに感じられるもののこと、であります。どういうことかといいますと、まず鉛筆で立体的な箱の絵を描いてください。で、次にカド近辺を残して線を好きなだけ消していってください。箱だったものは小さな矢印に似たものの集まりになると思います。それでもなんだか箱の形が見えますよね?この無いのに見える形が、形の無い形。残ったカド近辺の線が、実際表現されているもの、つまり映画ならストーリーや映像にあたるものです。一見バラバラに見えるパーツが大きな1つの形を作る。この立体感をうまく、かつ嫌味なく伝えられるかどうかがいい作品とイマイチな作品の、ひとつの境界線なのではないかと思う。見えないのだから当然おぼろげな境界ではあるのだけれど。

今回見た「15中年漂流記」はそういった意味での成功作品だと思う。無人島でのサバイバル中はただ残酷なだけの悪趣味映画に見えるのですが、主人公の書店員が悪夢のような日々から帰還し日常に戻るラストでそれまでの全てが意味を持ち始める。泣きながら一人新刊発売の雑誌を陳列してゆくシーンは胸を打つことうけ合いです。

25号 ジョニー、ファイトー

「がんばっていきまっしょい」を見る。

ボート部の映画だけに水を基調とした映像が多く、清涼感を感じさせる映画だった。女子高生5人がたどたどしく女子ボート部を立ち上げてゆく様も微笑ましく、優しい気持ちになれる。こんな高校時代なら確かにずっと続けばいいと思える。けれど我々大人はそれが3年足らずで必ず終わることを知っている。

古ぼけたボート部のクラブハウスを取り壊すところからこの映画は始まる。ハウス内の壁に本編で活躍する女子5人の並んだ写真が貼ってある。埃を被った過去のものだ。そうして本編が始まるわけだが、過去の話なのだということが頭のどこかに残ったまま見ることになる。終わりを意識しつつ彼女たちのボート部での青春を見るわけである。そのことがなんともノスタルジックな寂しさといとおしさを生む。

こういった感覚は多分、高校時代を通り過ぎた人間にしかわからない。ある程度の経験がないと言葉で語られない部分を汲み取ることが出来ない。邦画にはそんな映画が多いような気がする。見る年齢によって感想が違ってくる。全天候型エンタメ満載のハリウッド系洋画がパッと咲いて散る打ち上げ花火なら、邦画はじわじわと違った輝きを見せる線香花火である。噛めば噛むほどライクなスルメイカである。そんな邦画が最近お気に入りなのです。

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24号 菊池凛子が意外に可愛いのこと

「図鑑に載ってない虫」を観ました。感想に詰まる。良いとかダメとかその手の感想がでてこない。なんだこれは。

私は映画を観るときにはそのジャンルに合った脳を起動します。アクションならアクション脳、ドラマならドラマ脳、といった感じで軽く心が身構える。それをすかされると洋画「サイン」のような悲劇が起きるわけです。ちなみにサインはSF映画と思って観ると怒るか笑うかのどちらかになります。私は笑いました。あれは某映画誌に書かれていた通りSFの皮を被った家族ドラマです。

さて「虫」ですが、まずどんな脳を起動していいのかわからない。パッケージからわかるのは、怪しそう、楽しそう、菊池凛子の眉が無いということぐらい。さらに恐ろしいことに観始めてからも全くどんなジャンルなのかわからない。連発される悪ノリにクスっと笑ってる間に気がつくと話が展開して行っている。いやほんとなんスかこれ。強いて言うなら舞台テイストの喜劇。私はこの映画のせいで新たに自分の頭に新ジャンルの脳を設けるハメになりました。この監督専用の。

後で監督について調べると某人気TVドラマの監督であることが判明。納得。この人なら仕方がない。色んな意味で。

良い映画かダメ映画かは語れないけれど、好きか嫌いかならどうも好きらしい。DVD買っちゃった。

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23号 富江

最近見た邦画について語るコーナーを無理言って入れてもらいました。本屋と関係ないです。すんません。

「街」というゲームがある。渋谷界隈に住む男女八人の五日間を追うサウンドノベル。映像は本物の役者を使ってとられており、有名なところでは北陽の伊藤さん、ブレイク前の窪塚洋介さんなどが出演している。

「街」の登場人物の一人に「水曜日」という女子高生がいる。この「水曜日」役の役者さんが出ている、ということで懐かしさも手伝い伊藤潤二氏原作「富江」を見た。富江の放つじわじわとした恐怖感は良。なにもしていないのにいるだけで薄ら怖い。恐ろしいほどの美人、と言われながら終盤まで常に顔が見えないアングルで撮られており、それがまた怖いもの見たさな好奇心を煽る。が、脚本で詰め込みすぎたのか、焦点が絞れておらず展開がツギハギな印象を受けた。色々といい要素もあるだけに残念な感じの作品でした。

血的恐怖のMAXはDVDパッケージなので、手にとって耐えられたならホラー苦手でも見れます。富江ファンならお薦め。すんませんやっぱそれほど薦められないので自己責任で見てください。

なお「街」で「水曜日」を演じていた留美さんは、脇役として出演しておりベッドシーンがあります。相手役も知った顔です。こっちのファンは心して見るように。

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