一人書店査察団報告(仮) (空犬)

14号 お色直し

昨年はある種の「仕掛け」で既刊文庫を売る試みがいくつか目につきましたね。メディアで取り上げられた主なものだけでもこんなものがありました(二〇〇七年十二月七日付朝日新聞「既刊文庫、仕掛けて売れ オビ変えたら60万部」を参考にしています)。

POP+帯でブレイク……『思考の整理学』(ちくま文庫)、『行きずりの街』(新潮文庫)、『アルキメデスは手を汚さない』(講談社文庫)、『モルヒネ』(祥伝社文庫)。

思考の整理学 (ちくま文庫)
外山 滋比古
筑摩書房
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行きずりの街 (新潮文庫)
志水 辰夫
新潮社
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アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)
小峰 元
講談社
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モルヒネ (祥伝社文庫)
安達 千夏
祥伝社
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新装カバーでブレイク……『銀河鉄道の夜』他(集英社文庫・蒼井優の写真)、『人間失格』(集英社文庫・マンガ家小畑健のイラスト)。

銀河鉄道の夜
銀河鉄道の夜
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宮沢 賢治
集英社
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人間失格 (集英社文庫)
太宰 治
集英社
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前者は主に書店発、後者は版元発ですが、本コラムとしては当然、書店発のものに注目。ちょっとした工夫で既刊がよみがえるならば、売り手のがんばりがいもあろうというもの。しかも、この種の書店POP発のもの、うまくいけば、版元の目にとまり帯に採用、全国に広がってさらにブレイク、という図式もできています。『思考…』なんて20年以上も前の本ですからね。それが今やどこにいっても平積み。

ところで。新装と言えば、集英社、光文社などがカバーデザインを変えましたね。洗練されるのはいいのですが、ひいき文庫や作家の背が不揃いになる悲劇(旧中公ファンや、河出の澁澤コレクター、あたりが典型例)も。前掲記事には新装による店頭効果は良ともあり、コレクターにはともかく、一般には歓迎すべきことなんでしょうね。

10号 本は面で見せる/魅せる

店頭での拡販ツールの代表選手、ポップの話を前回書きました。そのポップの有効性はもちろん全面的に認めた上で言うのですが、一冊の本が店頭での存在感に関して、いかに多くをカバー(表紙)に拠っているかということをあらためて思い知らされる機会がありました。

写真は、札幌の書店、くすみ書房の文庫棚です。ご覧の通り、厚みのない、背の高い棚をうまく使って、多くの本を面出し(「面陳」「面差し」とも)にしています。「売れない文庫フェア」「○○文庫(ほぼ)全点フェア」は同店の名前を本好きの間に知らしめたユニークなフェアで、ちくまや写真の河出が文字通り(ほぼ)全点面出しされています。

こうして表紙を並べただけで、ふだん文庫棚を熱心に見ているような文庫好きでさえ見たことのないような棚が出現しています。実際、私も文庫好きを自称、主要文庫の本はだいたい知っているつもりでいました。でも、背=タイトルで知っているつもりでいた本でも、表紙が見えるように並べられただけで印象が一変していることに、驚かされました。とても新鮮な眺めで、思わず何冊も手にしてしまったのは言うまでもありません。

考えてみれば、表紙は商品の「顔」、本来、作り手の「売りたい」気持ちが端的に表れているところ。帯やポップに頼らずとも、表紙だけでも読者を引きつける力を持っているのが当然なのかもしれませんね。表紙の力を再発見させられました。

9号 競合から共闘へ

お客さんにとって理想の書店とは、究極的には「求めている本が置いてある店」でしょう。ただ、現在の新刊点数からして、お客さんの数からして、個人の嗜好性のきわめて高い書物の商品特性からして、ある客の購買欲とあるお店の品揃えとが合致することは、実は非常にむずかしいことなのかもしれません。

だから「競合から共闘へ」なのです。「求めている本が置いてある店」にお客さんが出会う可能性をその「街」がカバーするのです。

この「ルーエの伝言」を手にされている方は、おそらくルーエをよく利用しているお客さんでしょう。数ある書店のなかからルーエを選んで足を運ばれたのでしょう。しかし、毎度ほしい本が見つかるとはかぎりません。お探しの本がルーエにないこともあるでしょう。そんなときに、あとでネットで探せばいいやとか、なければ読まなくていいや、なんて思わずに、もう1軒、吉祥寺の書店をのぞいてみてください。

吉祥寺には、新刊や雑誌のショーケースのような弘栄堂もあれば、芸術・文芸書が豊富なリブロも、専門書が充実している啓文堂もあります。そのほか、ユニークな専門書店、古書店がたくさんある街、それが吉祥寺です。

「○○書店で本を」から「吉祥寺で本を」、それが買う側にとっても、売る側にとっても、そして街全体にとっても、実はいちばんいいかたちなのかもしれません。「吉っ読」は、それをこれから模索してみようと思うのです。

5号 ポップは誰が作るもの

ポップの話の続き。

ポップを作るのはやはり、出版社、書店、著者の三者のいずれかであることが多いでしょう。私も担当した本のポップを自分で作ったりするので自戒をこめて言うのですが、版元制作タイプはあんまりおもしろくない。印刷やデザインにお金をかけた立派なものもありますが、どうしても帯やチラシの発想とかぶってしまいがちですから。

著者によるものは、書店や出版社が枠だけ用意して中が手書き、というのが多いようですが、なかには、一見「手書き」と見えて、実は出版社が用意したカラーコピーだったりするものもあります。

やはりポップがおもしろいのは書店発信型タイプ。書店の個性、担当者の思いを直接ぶつけられるアイテムです。力を入れたくなるのも当然でしょう。書店発の力作が集められた、こんな本まで出ています。梅原潤一『書店ポップ術 グッドセラーはこうして生まれる』(試論社)POP王『POP王の本! グッドセラー100&ポップ裏話』(新風舎)

前者は「某書店勤務のカリスマ店員」、後者は有隣堂の現役書店員の手になるもの。人を動かすポップがどんなものなのか、実例がたっぷり収録されていて、書店好きにはたまらない本になっています。

ところでこの本、本来の読者対象は書店員のみなさん、なんでしょうか。そりゃまたずいぶんと限定的な対象設定のようで……。

POP王の本!―グッドセラー100&ポップ裏話
POP王
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3号 ポップに注目

今回は「ポップ」の話。ポップとは、本の内容やセールスポイントを簡潔にまとめたはがき大程度の紙で、専用のスタンドで本の上や脇に立てられていたり、平積みの一番上の本に留めてあったりします。その中身や数は書店によって驚くほど異なります。

本は、売り手が商品自体に手を加えることはもちろんできませんが、このポップをうまく使えば、開いてみないとわからないその本の魅力を、外に見えるように引き出すことも可能なわけです。売り手の気持ちを思いっきり表現できる場なわけですから、担当者が力を入れたくなるのも当然ですね。ある意味、棚の作り方と並んで、その書店、その売り場の個性を決定する最重要アイテムの一つだと言えそうです。過去には一枚のポップから書店独自のベストセラーが生まれた例などもあるほどです。

さて、当ルーエのポップ事情。文庫担当の花本氏いわく「吉祥寺でいちばんポップが多い書店はルーエだ!」とか。ポップ乱発で知られるヴィレッジヴァンガードを二店も抱える吉祥寺でポップ数一番を名乗るこの勇気、この自信!参考に、ルーエの過去の名作(?)ポップから、一つ紹介します。書名とイラストのみですが、なんだか妙な迫力があって、へたなキャッチコピーよりも確実に購買意欲をそそります……たぶん。

2号 カバー、おかけしますか?

カバーの話、続きです。書店で本を買うとかけてくれるカバー。クラフト紙に店名が入っただけのつまらな……もとい、シンプルなものから色・紙質・デザインに工夫のこらされたものまで、さまざまです。

このカバーを集めている愛好家もいて、書皮友好協会なんて会があるほど。「書皮」=カバーの蒐集だけでなく、「書皮大賞」の選定も行っています。二〇〇五年度の大賞は兵庫県神戸市の海文堂書店さんが受賞。さすがは港町、海文堂さんは海運関係専門店だそうで、帆船をあしらった洒落たデザインは書皮協のサイトで見られます。当ルーエのカバーもキン・シオタニさんのイラストが入ったなかなかに個性的なもの。近隣の本好きには人気があるようです。

書皮を集めた本、出版ニュース社編『カバー、おかけしますか? 本屋さんのブックカバー集』(出版ニュース社)も出版されています。帯のコピー「本屋さんのカバーも好き」の「も」に、カバー愛好家のみなさんの思いがあらわれていますね。

ちなみに私、ふだんは、カバーは断ることが多いのですが、今後は、初めて買い物をする書店ではかけてもらうかなあ。そうすれば、本を買うときの楽しみが増えそうです。みなさんも、お気に入りのカバーを求めて、いつも買い物をする店とは違う書店に足を運んでみるのもいいかもしれませんね。

カバー、おかけしますか?―本屋さんのブックカバー集
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