黄色い部屋からコンニチワ (ドン・ウー)

37号 新人さんいらっしゃい

20回鮎川哲也賞受賞作。月原渉「太陽が死んだ夜」。あまり賞物を追いかけるクセがないので、鮎川哲也賞についても詳しくなかったのだが、あらためて選考委員の名前をみて驚いた。笠井潔、北村薫、島田荘司、山田正紀。おいおい、そうそうたるメンバーじゃないかよ!この人たちに選んでもらうって嬉しいような、怖いような…。しかし、この選考委員が選んだ作品となれば、これは期待値が否応がなしに上がるってもんだ。

第二次大戦末期のニュージーランド日本人収容所でおきた密室殺人。数ヵ月後、全寮制女学校の教会で、密室状態の部屋で腹を横一文字に裂かれた少女の死体が発見される。41年後ラザフォード女子学院に入学したジュリアンは親友のバーニィと、祖母の手記を手がかりに事件の真相を追い始める。三つの事件に共通するのは、ハラキリと密室!

登場する15歳の少女たちが非常に魅力的。全寮制の女学院と聞いてみなが思い浮かべる世界がちゃんとあるし、そこにハラキリの死体というグロテスクなものを登場させることで、それがより際立つ。

確かに、密室などバリバリのトリック大好きっ子からすれば、むむってとこもあるんだけどねぇ(笑)、読んでいて楽しいという気持ちを覆すような欠点ではない。とにかく読んでいて飽きないし、エンタテイメントしているのである。

太陽が死んだ夜
太陽が死んだ夜
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月原 渉
東京創元社
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36号 萌え?

今回はコチラを。米澤穂信『クドリャフカの順番』角川書店

神山高校の古典部に入部した折木奉太郎、千反田える、福部里志、伊原摩耶花。4人のミステリー。『氷菓』『愚者のエンドロール』に続く「古典部シリーズ」第三弾!なにを隠そうワタクシ前2作は読んでおりません。というかシリーズものだと知らなくて…。でも、これがまた面白かったのだ。

神山高校文化祭、「カンヤ祭」が舞台。古典部で販売する文集「氷菓」を200部もつくってしまった4人は、文化祭期間中にいかに文集を捌くか案を練り始める。ところが、占い研究会でタロット、囲碁部では碁石がと、様々な部活で次々に何かが盗まれてゆく、そして現場には必ず声明文が。そこに、わらしべ長者、才能を巡るほろ苦い話、アガサ・クリスティ!と色々絡んで…。

日常系、ミッシングリンクもので最後まで謎に引き込まれる。それプラス、登場人物それぞれの想い思惑が重なりかつ読みやすく提示されていて、このまとまり感はスゴイなと。そしてなんといっても、米澤作品に通底する、この作品全体を覆う「愛くるしさ」は一体なんなんだい!可愛いキャラクタ絵があるわけでなし、萌えキャラがいるわけでなし。しかし男女ともに愛くるしい…。これが「萌え」?この謎に迫りたいが紙面の関係上、来月に続く!うん!続かないこともある!

クドリャフカの順番 (角川文庫)
米澤 穂信
角川グループパブリッシング
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35号 音楽への愛だけで書かれた小説

音楽とミステリー。私の知識のなかでは、なかなかの難題である。そこでミステリーというとまた少し違うかもしれないが、今回はコチラを。

『鳥類学者のファンタジア』奥泉光。来るべきオマケのために書かれた小説だといってもいい小説である。「所柄をわきまえず、やたらと吹くフルーティスト」こと奥泉光の傑作。

主人公のジャズピアニスト、フォギーが、第二次世界大戦下のドイツに飛ばされて…。というSFファンタジーなのだが、小難しいSFを読む感じではない。ただただ音楽的魅力(とくにジャズ)に溢れた作品なのである。猫や宇宙オルガンなど、奥泉作品にお馴染みの小道具も配置。交霊会や祖母との出会いをへて、まちうけるは大団円。オマケだというスタンスなのだが、この大団円が凄いのだ。ジャズファン、いやさ音楽ファンなら一度は願う願望が、実現されている。物語の途中は忘れちゃったけど、ラストだけはしっかり覚えてる(笑)

自分の音楽ヒーローを当てはめて読めば、この小説のラストがいかに大団円であるかが良く分かるはず。私はデヴィッド・ボウイで想像してデヘヘって笑っちゃいましたよ。もう、このラストが書きたいがために書いたとしか思えない最高のラスト。こういった本をCDショップに置いていたら、カッコイイんだけどなぁ〜。

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)
奥泉 光
集英社
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34号 ボルヘスにメロ〜な、私

L・F・ヴェリッシモ「ボルヘスと不死のオラウータン」作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス・ラブな小説である。もうとにかくそうなのだ。引用がそうであり、薀蓄がそうであり、なにより物語の主人公がボルヘス にメロメロなのだ。

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開催されたエドガー・アラン・ポーの愛好家が集まる学会に参加した本書の語り部「私」は、そこで参加者のひとりが密室で殺されている現場に遭遇する。このダイイングメッセージを解くために「私」は作家ボルヘスと事件の解決に乗り出すことになる。

ミステリとしてはそんなに大きな驚きのないこの小説なのだが、なにしろ「私」のボルヘス愛がまぁ目につくこと。「私」のボルヘス愛はもう恋なのである。例えば、ボルヘスが「私」を推理仲間と認めてくれた瞬間など、もう地に足がついていない。以下「私=フォーゲルシュタイン」の語りである。

「セニョール・フォーゲルシュタインとわたし」とは!あなたは迅速なみずからの推理に私を含め、対等な人間であるように言ってく れたのでした。私たちはコンビだった…もの書きにして、宇宙の謎解き。単純で複雑。ボルヘスと私、私とボルヘス。許してもらえたのだ!

ね。もうメロメロでしょ。

いや薀蓄と愛にまみれ、ミステリとしてもなかなかなのだが結局、読後にはメロメロな「私」の印象しか残っていないというこの作品…。はてさて、そんな印象だけでいいんだか悪いんだか(笑)。まっいっか。

ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー ウ 31-1)
ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ
扶桑社
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33号 同人誌風ミステリ

なんちゅうか、ハルキ文庫版スゴイ表紙だな…。などと思っていたら、出版芸術社ハードカバー版はもっととんでもないことになってるぞ!レオタードの女性戦士風の女の子が表紙なんだけど、これでタイトルが『コミケ殺人事件』だからな。しょうがないけど、絵もまた時代を感じるし…。

ともあれ読んでみるしかないか。コミケと名がついているだけあって舞台はコミックマーケット会場で、今のビックサイトではなく晴海会場のころである。美少女SFミステリアニメの「ルナティク・ドリーム」のファンクラグ「大きなお茶屋さん」のメンバーはルナティク・ドリームの結末を予想した同人誌「月に願いを」をコミケで発表するのだが、当日届いた完成原稿に「この本に書いている連中はミナゴロシ 影」との殺人予告が印刷されていた。そして予告通 り現実にサークル仲間を狙った連続殺人がおこってしまう。

同人誌「月に願いを」がまるまる作中にはさまれているのだが、サークルメンバー7者7用の作風とアニメ「ルナティク・ドリーム」の殺人の解決の提示がそれぞれにあり、それだけでも楽しめる。本格もの、解釈学風、小栗虫太郎のパロディ、そして「月に願いを」の内容があとから本編に効いてくるというのだから凝ったつくりでおそれいる。 丁寧なつくりに、遊び心と良作である。

コミケ殺人事件 (ハルキ文庫)
小森 健太朗
角川春樹事務所
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32号 世紀末ミステリー対談

まぁ本棚ってのは整理するものだ。で、休日を利用してたいした本が収納されているわけでもない本棚整理をした。そこで、なんだかいい感じの雑誌を見つけてしまったのである。そこで今回はコチラを。ユリイカ(1999年12月号 ミステリ・ルネッサンス)。

かなり古い雑誌ですが、法月綸太郎と奥泉光の対談があったり、京極夏彦、桐野夏生、殊能将之などのインタビューがあったりと、ミステリーファンとしては見所満載の雑誌なのである。とくに、京極夏彦と殊能将之のインタビューが面白い。あらためて2人のインタビューを読んでいると、2人ともミステリ創作において同じようなことを言っていることに気がついた。例えば京極夏彦はこう「…最初に創るのは設計図でしょう。中略…ストーリーなんかはまあどうでもいいんです。」一方殊能将之は自作『ハサミ男』について訊かれて「伏線なんです。本格ミステリーというのは要するに伏線なんです。中略…ああいう結末にしたいがために、ああいう人物設定になったわけです。」とポツリ。

殊能将之は最後に京極夏彦へのシンパシーも語ったりまでする。つまりは2人とも本格ミステリーの魅力はトリックありきで作られるというところにあると言いたいんだろう。そしてだからこそ、本格ミステリーは面白いと。ふむふむ。面白い話、たまには本棚整理も悪くないなぁ〜。

ユリイカ1999年12月号 特集=ミステリ・ルネッサンス

青土社
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30号 一変する快感

コンニチワ。今回はコチラを『スラッシャー 廃園の殺人』。とある拷問室から始まる物語。さっそく怖いですね。ホラー作家、一藍(いちあい)が乱歩の「パノラマ島奇談」そのままに作り上げた怪奇趣味の巨大な廃園「魔庭」。庭の主、一藍が謎の失踪をとげた後、魔庭では大学生たちの遺体が発見される。そんな庭に訪れた映画会社のスタッフ達。庭を探索するスタッフの後ろに張りつく黒い影、さあどうなる。

殺害シーンはどれもスプラッター系で、苦手な人は結構辛いと思う。かく言う私も、若干読み飛ばし気味、読んでて痛い。ああ、でも読んでしまう。痛いものみたさ。

ところが、そんなB級ホラー映画を地でいくような展開が最後に本格ミステリーに様変わりするのである。この急激な様変わりがとにかく魅力的である。引用部分に「たとえ犯人の正体がバレバレでも良いのです」とあるとおり、犯人はある意味バレバレで前半は単なるホラー小説かと思える内容なのだが、そのバレバレすら逆手にとったオチ、明かされる真相、論理、不気味なエンディングと、ラストはちゃんと本格ミステリーになっている。この様変わりが、読んでいて楽しい。

ホラーが本格ミステリーに一変するその瞬間。非論理が論理に反転する瞬間を一番美しく書けるのは三津田信三なんじゃないのか?そんな気がしてくる。

スラッシャー 廃園の殺人 (講談社ノベルス)
三津田 信三
講談社
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29号 童話ミステリーとミステリー

マスターはそう言うと静かに床に崩れ落ちた。あとには空になった〈酒の名〉の一升瓶が残されている。

毎度、この一文で終わりを迎える、九つの物語。 今回はコチラを。『九つの殺人メルヘン』 ミステリー的分類は安楽椅子探偵ということになろうか。バーの常連である刑事の工藤と山内はいつものようにマスターと話ながら飲んでいる。とそこに見慣れぬ若い娘、桜川東子が現れる。この桜川さんが名探偵である。そして彼女が工藤がもちこむ難事件を、有名童話を交えつつズバッと解決してゆくのである。探偵を取り巻くおじさん達はたじろぐばかり。

「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」など有名童話に新しい解釈をくわえるという方法は鯨統一郎の得意とするところであり、加えられた解釈はなかなかに新鮮である。そのほかにも、テレビやドラマ、映画に本そしてもちろん酒のネタも満載で4人の会話そのものも楽しめる形になっていて飽きさせない。とくに日本酒の薀蓄は勉強になります、いやほんと、本醸造、純米酒、吟醸酒の違いなんて知りませんでしたから。

九つの殺人メルヘン (光文社文庫)
鯨 統一郎
光文社
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27号 竜殺しは如何にしてなされたか

うーむ面白い。なにしろ「ゲーム界が誇る当代最高の悪魔絵師」金子一馬が装丁画ですからね。お見せできないのが非常に残念なのだが、ここで金子一馬が描いた竜なんて普段私が思い描く竜とは似ても似つかないデザインでしかも恐ろしくカッコイイ。

で物語はというと、舞台は異世界。戦争の調停のために通商連合七海連合の調停士ED(エド)と風の騎士ヒースロゥ、立会人の女性リーゼは竜のいる街ロミアザルスを訪れる。しかしそこで事件は起きる。魔法で封印された洞窟の中で不死身と思われていた竜が死んでいたのである!世界を創造したともいわれる竜は明らかに誰かに殺されていた!一体誰が!?何故!?うむ、魅力的な謎だ。ファンタジーという設定がフルに活かされた謎である。

そして明かされる、竜殺しの真実とは何かだが、竜殺しをどうやって?の部分の謎は意外とあっさり目でもう少しテクニカルに凝ってても良かったかな〜とも思う。

しかし、この本これだけでは終わらない。竜殺しを誰が?何故?という部分になって、人知を超えた存在としての竜の存在が際立つように作られていて、全体の雰囲気をピリッとしめている。とにかくまだまだ読みたいと思えるエンターテイメント作である。

殺竜事件―a case of dragonslayer (講談社ノベルス)
上遠野 浩平
講談社
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26号 ナナフシ小路の劇殺

コンニチワ。

ディスティニーのスペルが未だ覚えられません。どうしましょう。ということで今回はコチラを。『ナナフシ小路の劇殺』。印藤彬の最新作です。

『ライオン』『即自密室即刻逮捕』に続く、名探偵「綾ミゲル」シリーズ第3弾。デビュー作の『ライオン』では、イタリアを中心とするヨーロッパを舞台とする、トラベルミステリー。続く『即自密室即刻逮捕』は日本のとある館を舞台にした、密室もの。とシリーズものとは言え、毎回ずいぶんと違う作風のものを書いているので、新作『ナナフシ小路の劇殺』はどうなんだ!と思って読んでみる。タイトルにナナフシ小路なんてついているから、 まぁ道で事件起こるんじゃない?とか思っていたらさにあらず!

舞台は普通にヨーロッパの古城。なんとまぁミステリ好きにはたまらない設定。そして今回はドタバタミステリー。『ライオン』で重厚な作品を書いた作者とは思えないコミカルさ。ここらでその馬鹿馬鹿しさをちょっと引用でご紹介すると、

その奇妙な男は科学忍者だと自らを名乗った。鳥のくちばしをしたようなヘルメットをかぶり、あろう事か翼の形をした白いマントを羽織っている。『はじめまして』男はその風変わりな格好とは裏腹に、優しい口調で全員に挨拶をした。そしてミゲルに向かって言い放った。『ミミズクとコンドルはじきに到着します。さあすべてを終わらせましょう』
まぁこれは明らかですね。科学忍者隊ガッチャマンです。続いては、
儀式はすでに始まっており、赤と紫と緑、そして黄色のエプロンをした4人の司祭が風車の前で祈りを捧げている。となりにいたアイリが囁くように『あの風車はムスベルヘイムと言います』といった。『今は霧で見えませんが、あの風車の向こう側におなじようにニブルヘイムという風車が立っています』霧で見えにくいが、100メートルほど先にも何か大きな影が見えた。『なるほど北欧神話始まりの世界がここにそろっているというわけだ。ところで、あの4人が呟いている言葉はなんですか?ヨーロッパの言葉はだいたい知っているつもりだったのですが、何といっているのか聞き取れない…。』『あれはタビー語ですよ。どの時間にも、どの空間にも属さない神聖な言葉です』と言って少し可笑しそうに笑っている。

エプロンの色、風車、タビー語っていえば、子供向け番組テレタビーズ。そのほかにも「アッチョンブリケ」や「ネクタイ型変声器」はたまた「自転車のスポーク」で戦ったり、マンガやアニメからの引用、パロディが盛りだくさん。パロディであることを隠そうともしないその姿、潔し!

もちろんパロディだけでは終わらないとこが印藤彬。ミステリー部分もヘソなし死体に4重密室など 、次々に起こる殺人事件を論理で解き明かしてくれます。この辺りの重厚さは笠井潔の矢吹駆シリーズに近いものがあります。まぁオチはどえらいものが待っていて、矢吹シリーズとは似ても似つかない内容ですが…。

『ライオン』では重厚さ、『即自密室即刻逮捕』では本格ミステリー。そして『ナナフシ小路の劇殺』でパロディと印藤彬、絶好調です!

25号 長湯マイスター

コンニチワ。

半身浴それは、トロピカルな響き。半身浴それは、猫足のお風呂。半身浴それは、格好の読書タイム。ということで半身浴にハマッております。で、問題はです。もちろんあれです。半身浴タイムに何を読むかです。これは大事な問題。色々考えてみると、ジャンプはインクだだ漏れなんでOUT。哲学書のような難解なものは、リラックスタイムと相反するのでOUT。簡単なHowTo本は、小一時間過ごすには、あっけなさ過ぎるのでOUT。

では何があるのか!それはやっぱりミステリー!先の展開が気になるし、気になるが故に、次の日も半身浴しようという気もわいてきます。これで毎日半身浴できれば、お肌つるつるです。

しかし、ミステリーにも色々種類がございます。数あるミステリー作品の中から何を選べばよいのでしょう?基本的には読みたいものを読む。これが一番です。なんとあっけない結論…。ちなみに私のチョイス基準はサイズは文庫ないしはノベルス。綾辻行人や柄刀一、鯨統一郎などです。ノベルスのミステリはキャラクター小説的側面もあって 読みやすいですし、ミステリとしての完成度も高いです。

まぁ結論としては、普段は読まなくても、読みやすいミステリを。ということになりますね〜。

24号 GOTHリストカット事件

コンニチワ。今年も新しい年が始まりました。私の今年の目標は、ガンダムにすごく詳しくなる!です!ちなみに好きなガンダムは「ミーティアを付けたガンダム」「ミーティア」はデッカイ大砲のこと。デカイ=強い。この図式に、心くすぐられるのです。

では今回はこちらを。『GOTH リストカット事件』乙一。第3回本格ミステリ大賞受賞作。この回は同票で、笠井潔『オイディプス症候群』も受賞し、大賞作が2作品あるという珍しい回でした。

そんな大賞作『GOTH』は人間の残酷な面に興味を持つ女子高生、森野夜と「僕」。この二人の遭遇する猟奇的事件を中心とした連作短編ミステリです。本格ミステリ大賞受賞作ですが、トリック部分は意外とあっさりめで本格ミステリとして読むと、拍子抜けしてしまうかも…。しかしだからと言って、薄っぺらな印象はまったく受けないのです。これがスゴイ。本格的な様式美は守っているのに、クドイ印象がないのです。猟奇殺人を自ら進んで覘きみる主人公たちの冷めた感覚が、ヒヤッ、キュ!と物語全体を引き締めているんですね。

この独特の雰囲気がなんともいえず、特に「土」の哀しきラストは『GOTH』の醸す雰囲気の凝縮された形そのものです。読みやすく雰囲気もあって、騙されるという非常に良いミステリ作品。

GOTH 僕の章 (角川文庫)
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乙一
角川書店
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23号 青銅の悲劇

コンニチワ。どうですか?テレビ観てますか?私は、ついにテレビを押入れにしまって一年がたちました。あれだけのテレビっ子だったのに、自分でも信じられません。ただ、今の世の中はインターネット社会です。たとえ、テレビを断とうとも、ネットという大海には、テレビの代わりとなるものが存在しているのです。YouTubeとかYouTubeとか、YouTubeとか。ねっ!

家に帰ってテレビの電源をつける代わりに、パソコンの電源を即座にいれるようになってしまった、年の暮れ、なのです。そんなYouTubeでアップされていた、とあるアニメに影響されて、来年からこのコーナー名前を変えようと思います。その名も、「黄色い部屋からコンニチワ DESTINY」ということで、これからもよろしくお願いします。

2008年最後のルーエの伝言ということで、締めくくれば、やはり今年のミステリー読書のなかで、個人的に光っていたのは、笠井潔『青銅の悲劇』です。久しぶりの矢吹駆シリーズの新刊ということで、思わず購入してしまいました。

青銅の悲劇  瀕死の王
青銅の悲劇 瀕死の王
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笠井 潔
講談社
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あとは舞城王太郎の『ディスコ探偵水曜日』なんかも素敵です。じつは、この2作品はある一点において、双子のようなものじゃないかと思い巡らせているわけですが、それはまた来年書ければいいなということで。それでは、良いお年を。

ディスコ探偵水曜日〈上〉
舞城 王太郎
新潮社
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22号 民俗学御中

コンニチワ。今回はこちらを。

北森鴻「凶笑面」新潮文庫、民俗学探偵ものです。民俗学。うむ、一言では表しようのない学問ですね。分野が多岐にわたりすぎているのがその原因でしょうか…。乱暴に言ってしまえば、庶民の風俗や習慣を研究する学問とでも、申しましょうか。

何はともあれ、『凶笑面』はそんな民俗学とミステリが素敵に融合している小説です。大学の民俗学助教授、蓮丈那智とその助手が、地方の地主なんかの家に行って、てんやわんやの事件が起こります。とにかく、旧家の蔵なんかを見て回ったりするあたりは私にとってのツボ。いつかはこんな旅をしてみたい…。

ミステリ的な謎も魅力なのですが、それよりも民俗学的裏づけから、繰り出されるその土地の伝統や風習の隠された真実、犯人の動機などがこの小説を、他とは一味違うミステリにしています。

この作品に似たものとしては、京極夏彦のシリーズや高田崇史のQEDシリーズなどがありますが、どちらも長編なので読むのにある程度の気合を必要とするのですが、『凶笑面』は短編なので、気軽に読めます。しかも京極や高田シリーズにあるような民俗学的エッセンスがキッチリ詰め込まれているのです。これはお徳!鬼や妖怪など、この種のミステリの入門書になりうるのではないでしょうか?

凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉 (新潮文庫)
北森 鴻
新潮社
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21号 いってしまえばクイズです

コンニチワ。

昨今、巷ではクイズ番組が大流行です。クイズ番組で得られるもの。それは、ただテレビを観るだけじゃなく、問題の答えを考えることによって、番組に参加しているというワクワク感と、問題が解けたときの快感。これなんです。そーなんです。

そこでミステリのお話となるわけですが。謎が解けたときの快感。これはもう、ミステリ小説の中にもバッチリあるわけです。いやさ、これがなければミステリ小説とは言えないといっても過言ではないのです。では、もう一方の参加する喜び。これはどうでしょう。これはもう、読者への挑戦状なんかで存分に楽しむことができますね。しかし、ここにこの参加する喜びを極限まで押し広げた作品があるのです。

そう、今回はコチラを。東野圭吾「私が彼を殺した」講談社文庫。はっきり申し上げますと、この作品、作中探偵による解答編がありません。犯人が明示されていないのです。ただ、作品自体はフェアに書かれていて、隅々まで読んで、己の閃きと推理を駆使すれば、ちゃんと犯人が分かるようになっています。

「なっています」なんて書きましたが、ワタクシ、犯人分からずにネットで答えを知りました。ミステリは自分で推理しながら読むZEという人には、GOODな作品。

私が彼を殺した (講談社文庫)
東野 圭吾
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20号 バイバイ・エンジェル

コンニチワ。

まずタイトルが素敵だ、ということを申し上げたいです。読後に再び見たとき、このタイトルの印象が抜群に良いのです。笠井さんの作品だと、『哲学者の密室』『オイディプス症候群』のふたつはタイトルだけで名作の予感。予感というか名作です。大長編ですが…。

ちなみに『バイバイ・エンジェル』を第一作とするシリーズ探偵矢吹駆の別名はなんと、現象学探偵。スチュワーデス刑事なんてものがありましたが、それに勝るとも劣らぬニックネーム。そもそも、この矢吹駆シリーズ自体が笠井さんの思想/哲学の表現なわけで、現象学とか革命の話しが出てきても特別おかしくはないのですが、そのものズバリで現象学探偵と出てしまうと、ちょっと可愛らしいですね。まんまやないですか!と。こうなったら、脱構築探偵とか実存探偵とか、どんどんいけちゃいますね。形而上学探偵なんていたら、何するかまったく分かりませんが、名探偵の予感。

そんな不思議な探偵が出てくるシリーズですが、内容は素晴らしいものになっています。謎はオーソドックスなものですが、殺人の動機や背景に、革命や観念論の思想が絡められ重厚な雰囲気となって、この作品を名作へと押し上げています。

とにかく、他のミステリとは違う雰囲気を楽しみたい人は是非。

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)
笠井 潔
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19号 反則

コンニチワ。今回はこちらを。殊能正之『黒い仏』講談社文庫。

ミステリにはお約束があります。名探偵がでるとか、解決は論理的に行われなければならないとか、まぁ色々あるわけです。基本的には、こういったお約束を破ってはいけないことになっているのですが、それでも、敢えてそれらのお約束をミステリへの愛がゆえに破る、作品があるわけです。例えば、清涼院流水の『コズミック』また、『名探偵の掟』東野圭吾。毛色は少し違いますが、『六枚のとんかつ』蘇部健一などです。お約束を客観的、批判的にみることで、ミステリの新たなる面白さを見せてくれる作品たちです。反則なのですが、それでも面白く仕上がっている例ですね。

今回の『黒い仏』もミステリの形式を解体してしまった作品です。それも、紹介した2作品以上の反則をおかしているのです。いやもう、トホホなぐらい爽快な反則です。これはミステリでやっちゃダメでしょうという解決なのです。解決であるのかどうかすら怪しい雰囲気です……。

ミステリを知りつくし、愛しているからこその反則。反則から生まれる新たな地平。この結末が「あり」か「なし」か、賛否両論あると思いますが、私は「あり」です。怖いもの見たさに、一冊どうですか。

黒い仏 (講談社文庫)
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18号 分類という名の悦楽

コンニチワ。

分類するのは好きですか?小分けにしてますか?私は昔、釣り用のルアーを、錘を、それはそれは、細かく己のルールに従って分類したものです。そのルアーBOXが完成した時の恍惚感といったらもう…。本好きの人だったら、やっぱり本棚の整理なんて、ね。

さてさて、分類の魅力が見えてきたところで、今回はこちらを。『ミステリ百科事典』間羊太郎。これはもうタイトルのまま。古今東西のミステリを分類したものです。分類の魅力満載です。さて、どんな分類がされているかというと。「眼」「人形」「蝋燭」「手紙」「犬」「猫」「虫」「雪」「電話」「手」「遺書」…。この辺りが大分類で、ここからさらに中分類へと深化してゆきます。そして、行き着く先は個別のミステリ作品となっているのです。

作例であがっている作品が膨大で、まず著者の読書量にも驚かされます。そしてこの本の面白さは、辞典的に分類し、作品を紹介しただけにとどまらず、ミステリ外の薀蓄がちりばめられているところにあるのです。対談で北村薫さんが言っているように、間羊太郎の一作品として読めるのです。何か書きものをするときのアイデア本として、フル活用できますよ。

ミステリ百科事典 文春文庫
間 羊太郎
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17号 モーダルな事象

今回はコチラを。奥泉光『モーダルな事象』。

ミステリといえば、犯人当てやトリック、犯行動機あたりに目がいってしまい、そこがイマイチだとその本の評価自体も低くなりがちですが、たとえそれらがなくたって圧倒的なミステリ節をきかせている作品だって、世の中にはあるときにゃあ、あるのです。そしてその内の一つがこの『モーダルな事象』。

文藝春秋から出ているシリーズ「本格ミステリーマスターズ」のために書かれたものです。奥泉作品といえば、最後はメタフィクションへと昇華されがちですが、「本格ミステリーマスターズ」ということもあってか、この作品は、謎の解決をきっちり論理的に落とします。メタ的に逃げていない。奥泉さんいつも、SF的になるなぁ〜と思っていた読者は、これだけで拳をギュっとね。内容説明を多少したいのですが、色々な要素がてんこ盛りで説明しづらいのです。ここに上げきれないほどの、多様な要素を詰め込みながらも、薀蓄小説にも陥らず、エンターテイメントとして成立しているあたりはさすがの一言です、とだけ。これでお許しを。

そして最後に言ってしまいましょう。『モーダルな事象』はミステリでなく、文学です。と。文学とは何ぞやという事は土間にでも置いといたとしても、とにかく面白い小説に仕上がっていますと。

モーダルな事象―桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活 (文春文庫)
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16号 クロック城殺人事件

コンニチハ。今回はこちらを。

私は時計が苦手で、腕時計もしないのですが、みなさんの周りにはどれぐらい時計が存在するでしょうか?ちなみに私は、デジタル時計よりもアナログ時計を好んでいます。が故に、家にはアナログ時計が一つあるばかりです。いずれはこの時計もなくなり、時間にしばられない生活を送りたいなぁ〜と夢想中。

時計といえば、かの有名な『ドグラ・マグラ』も不気味な時計の音から始まったものです。時計が登場するミステリにハズレなしということでしょうか、クロック城も素敵な城となっております。まぁ城というか屋敷ですね。現在を刻む時計、10分遅れた過去の時計、10分進んだ未来の時計、これらの時計をようする屋敷。いやこれはもうなんか起こらないほうがおかしいってもんです。でまぁ起こるわけです。当然。

世界設定やキャラクターはライトノベルにも近いものですが、メイントリックは古きよき時代を思わせる大掛かりなトリックで衝撃的。でも、うん普通かなと思って読み進めれば、最後に待つのはどんでん返しにつぐひっくり返し。最も驚いたのは、昔からミステリに用いられてきた「あれ」にあんな意味をもたせて、ひっくり返しを、さらにひっくり返した部分です。作中ではあまり大げさには書かれていませんが、いやメイントリックに隠れてしまいがちなだけだと思いますが、巧いな〜と。

新しさと古さが同居した、ブレンドミステリーをご賞味あれ。

「クロック城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-1)
北山 猛邦
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15号 つまるところ君は冷え性だよ

コンニチワ。東京に雪が降る。雪は静かだ。そしてもちろん寒い。足の指先なんて、アイスですよ。そんな雪降る東京に触発されて、今回はコチラを。

『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月。冷たい校舎に閉じ込められた男女8人。閉じ込めたのは誰?自殺した同級生は誰?この二つの謎を中心に物語は進展していきます。この進展のしかたが非常に静かです。上下巻ということもあって、前半は多少、じらされることになりますが、その構成自体に、作者の罠があったりしてきちんと納得させられます。私の高校時代はこんなに多くの悩みをかかえて生活していたわけではない ので、自分の身に覆いかぶさるような切実さはあまり感じませんでしたが、最後にはやはり涙が……。

美しいです。「大人」になる直前の気持ちを描けていると思いますし、その雰囲気に浸るだけでなく、前に進もうとする、シーンがもうなんとも。ミステリというよりは、やはり青春小説。

ちなみに、辻村さんの作品はどれも装丁が雰囲気とマッチしていて良いですね。同じ雰囲気の装丁をもつ殊能さんの『キマイラの新しい城』はあれだけはっちゃけたミステリだったのに……、こうも違うとは(笑しかし『キマイラの新しい城』も非常に面白いので、また後日書けたらなと思ってます。

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)
辻村 深月
講談社
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14号 扉は閉ざされたまま

コンニチハ。今回はこちらを。

以前から何かと話題になっていた1冊です。犯人が密室殺人を完成させたところから物語がはじまる倒叙ミステリー。しかし何と、その扉を開かない。密室が出てきたら、ミステリー小説の多くは扉を開いて、ウワ〜となりますが、この本は徹底的に扉を開きません。そしてその扉が開かれない理由もキチンと用意してあって……。と面白い設定になっています。

こういった「扉を開けて密室にはいる」というミステリーのお約束を破る試みが痛快。扉を開けなければ、死体が発見されないわけで、そうなれば殺人が起こったかどうか、すら分からないわけです。そこは宮崎アニメのシータのように「開いてー」と叫ぶしかなくなるわけです。要は、凄く焦らされるミステリーなのです。この焦らされが物語の推進力。馬力あります。

ただ焦らすにしては、少し物語が長い気もしますが反対に、もっともっと焦らして最期にポーンと突き放してくれても良かったかもなどと思ったりします。あんなに待ったのに…。という結末も個人的に悪くないなと。テンポも比較的良いと思うので、新幹線の中で読むのに最適です。

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)
石持 浅海
祥伝社
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13号 動物化する世界のなかで

コンニチワ。今回はこちらを。

私は好んでミステリを読み、その中でも笠井潔作品は贔屓にしています。また、東浩紀に関しても、気になっていて本屋で見かけるたびにチラッとチェックをいれたりする人物だ。その二人がなんと往復書簡をかわした!そんな、私にとっては夢のような本。のはずだったのですが……。結論から言うと、これがまた、二人の話が噛合わないこと、噛合わないこと。二人の話の内容自体はあってないようなもの。危うく途中で投げ出しそうに。う〜んでもなぁと思い読み続けるうちにとうとう東浩紀が爆発!!なんと往復書簡をやめると言い出すのです。それに対する笠井潔の返信がこれまたかみ合わない。この辺りはもうドキドキハラハラのサスペンス!しかし、そんな手紙を繰り返すうちに、次第にお互いに何故会話が噛合わないのかという話にシフトしていきます。この辺りから面白くなってくるのです。しかし、ときすでに遅し、往復書簡はパタッと終わりを迎えるのです。

しかしこの新書、面白くないかといえばそうではないと思います。話の内容自体よりも、人と人がコミュニケーションをとる事の難しさ、その難しさに囚われて尚、書簡を続ける二人の姿にグッとくるのです。でもやっぱり、手紙ではなく対談だったらもっと良かったのにな〜。

動物化する世界の中で―全共闘以降の日本、ポストモダン以降の批評 (集英社新書)
動物化する世界の中で
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東 浩紀 笠井 潔
集英社
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12号 歴史のお時間です

コンニチワ。今回はコチラです。『歴史ミステリー講座』新人物往来社。「歴史」これほど謎に満ちたものもなかなかないでしょう。過去へ行くことができない限り、真実といったものは、結局藪の中なわけですし、そういった意味で「歴史」というものはすべからく「謎」なのだなと思うわけです。謎といえば、ミステリー小説は謎と非常に相性がいいわけです。というか、謎がないと始まらんわけです。そう考えると、歴史ミステリーなるものが存在するのは当然のこと。歴史は謎で、謎はミステリー小説なわけですから。

で、内容はといいますと、書いているメンバー(井沢元彦、中津文彦、高橋克彦)をみれば読まずとも良書であることがヒシヒシと。歴史ミステリーと時代小説の違い、歴史ミステリーの分類、資料の集め方、賞へ応募方法、各作家さんの作品裏話と大充実。

やはり歴史ミステリーは資料集めが大変なようです。図書館に行き、その土地を訪れ、文献を読む。家でゴロゴロしてちゃ書けないのです。これはもう私に書けるわけがないとあらためて実感。でも読むのは楽しいです、やっぱり。

そしてそんな歴史ミステリーの面白さの理由を少し分からせてもらえる素敵な本です。

歴史ミステリー作家養成講座 (祥伝社文庫)
井沢 元彦 高橋 克彦 中津 文彦
祥伝社
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11号 日本家屋なので扉がない

今回はコチラ。『第四の扉』早川ポケットミステリー。この間、なんと通巻1800巻を迎えたポケミス。海外ミステリが中心でここまで出し続けるということは本当にすごいことだと思います。

このポケミス、紙の質感や本の大きさ、装丁の雰囲気、ビニールカバーがもとからかかっていたりするところが、私のツボをおさえていて、実は私は前々から読みたかったのですが、海外作家をほとんど知らないこともあり、読めずにいたのです。そして満を持して購入した初ポケミスが『第四の扉』だったのです。

フランス人作家が古き良き本格ものを書いているという触れ込みに引かれて買ったのですが、確かに納得の内容です。呪われた屋根裏部屋での降霊会…。繰り返される密室殺人。怪奇趣味、などなど道具立てはバッチリです。前代未聞のトリックが使われているわけではありませんが、このお話の雰囲気と、最後の最後に待ち受けるどんでん返しに大満足。

この『第四の扉』はアラン・ツイストという犯罪学者を探偵としたシリーズの第一作目です。このシリーズで四作ほど出ています。もちろんすべてがポケミス!『死を招く』なんてタイトルからして素敵ですね。安心して読めるミステリなので気軽に手にとってみてください。

第四の扉―ツイスト博士シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ポール アルテ
早川書房
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10号 タイトル

コンニチワ。最近、漫画と雑誌ばかりを読んでいます。ということで今回はコチラ。『TITLe』2006年2月号(文藝春秋)特集「完全無欠のミステリー!全280冊』。37人もの著名人のおススメミステリ本が紹介されています。どの方も、その人柄が良く出ている選書で、ワクワクします。みんなミステリ好きなんですね〜、なんて思って少し温かく目になったりして。矢作俊彦さんの神保町めぐりコーナーも大充実です。

本の買いとか本当に参考になります。ああ、こういう風に選んだりすると、カッコイイんだなと(笑)。私個人としては、綾辻行人さんの選んだ、孤島もの5点が気になりました。『髑髏島の惨劇』が……。そんな気持ちを引きずりながらページを進めると、「松本清張をつかまえろ」なんていう企画があったり、名探偵プロファイルがあったりと、何度見ても飽きません。

そんな中、これは!と思った企画が「内田康夫特別インタビュー」探偵、浅見光彦シリーズ100冊が事件順にならんでいたりして、内田ワールド入門に最適。私もこれから入門してみようかなとチャレンジ精神を燃やしております。それにしても内田先生、でこんなに雑木林が似合うんでしょう。雑木林に立つ内田康夫の写真、ただこれだけでミステリを感じさせるなんて、何かが起こりそうなこの雰囲気が何とも。

9号 テツ・テツ・テツ

コンニチワ。なにやら世間では鉄道ブームがきているとか、いないとか。みなさんの周りではどうでしょうか?

今回はこちら『ミステリ・マガジンNo.604 鉄道ミステリの旅』(早川書房)海外ミステリを中心に紹介するミステリ専門誌『ミステリ・マガジン』の鉄道特集号です。

やはり、鉄道とミステリは相性が良いなと。鉄道ミステリの魅力ってどこにあるんだろう?ひとつは、探偵も被害者も、はたまた犯人すらもレールと時刻表というものに縛られた状況、この制限された状況があげられると思います。ここで生まれるドキドキ感。

もうひとつは、旅。ミステリ・マガジン誌上でも通勤電車、地下鉄などの作品もあがっていますが、なんといっても鉄道といえば旅かなと思います。この旅に対するある種の郷愁とモコモコした思いが、物語に不思議な余韻を与えてくれるのです。要は、鉄道ミステリって閉鎖空間でモコモコ体験ってことなのかもしれません。

そして最後に、この特集号にはエドワード・ゴーリーの『ウィローデイルのトロッコまたはブラック・ドールの帰還』というイラスト兼物語が載っているのですが、これがまた素晴らしいです。不思議でテツで、おセンチな物語。鉄道ミステリの世界へレッツらゴー!!

8号 薔薇

コンニチワ。今回はこちら『薔薇の名前』。原作は一九八〇年、ウンベルト・エーコ作の同名小説です。一三二七年、カトリック修道院で起こった連続殺人事件の解決にショーン・コネリー演じる修道士ウィリアムとその弟子アドソが挑みます。

哲学者エーコが書いただけに哲学、宗教、歴史など非常に多角的に読み込み可能な作品ですが、ここはあくまでミステリ的にみてどうなんだというところで書いてみようと思います。

そこで実際に観てみると、のっけからウィリアムのホームズ張りの名推理が炸裂! いきなりトイレの場所なんぞを当ててしまいます。修道院の人々と繰り広げられる論争においても終始一貫して論理的に相手を打ち負かす態度たるや、日ごろよく見かける名探偵さんたちそのものです。

雪につけられた犯人の足跡なんていう定番の小道具も登場して、これまた見事に説明しつくしてくれます。この古典的小道具がミステリファンとしては嬉しくてたまらないところ。こんなシーンがあるだけで考えなしにミステリだなぁ〜と思ったりして。

また、暴かなくてもよい謎、そのままにしておけばただの事故だったものを、探偵であるが故に事件と判定し、さらなる悲しみの深みへ周りをまきこんでゆくウィリアムへ警告が発せられる場面もあり色々考えさせられたりもしたりして。こういった事を考えてゆくと、探偵とは何ぞや? 探偵の提示した解決が人を幸福にしているのか? 探偵の解決だけが真実なのか? といった疑問にぶち当たるわけで……。 映画の内容とはかなり離れてしまったので、軌道修正を。

後半部分では冒険活劇的要素も入ってきて、物語がぐいぐいと進んで行きます。このあたりになると殺人事件そのものの解決というよりは、その奥に潜む動機の謎解きになります。これがまたミステリによくあるパターンで、ここまでくれば結論が知りたくて知りたくてという状態になっているはず。

本屋として押さえておきたいのはやはり迷宮図書館。図書館に入った時のショーン・コネリーの喜びかたの可愛いこと可愛いこと。この映画自体、「本」というものが重要な鍵になっているので、図書館の表現がすごく凝っていて、ググッと握りこぶしを固めてしまいます。 そして最後には「薔薇」の謎も浮かび上がり……。と大満足の結末。

総論としては、トリックだけみるとあっさりとしていますが、それを気にさせない妖しい雰囲気が作品の全体を包みこみミステリとしての完成度をグンと引き上げています。この雰囲気が味わえるだけで充分な気がしたりして……。これぞまさに本格ミステリ!

薔薇の名前 特別版 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ (2004-09-10)
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7号 ポンツーン

コンニチワ。今回はこちら。『ポンツーン No.103』(幻冬舎)

幻冬舎が月に一回出しているフリーペーパーです。本屋のレジ前などにあると思います。実はこのフリペの中で「ミステリの書き方」なる連載があります。これがミステリファン延髄の連載なのです。この回では何と、大森望さんが綾辻行人さんにトリックの仕掛け方を訊いています。少年時代の話から、トリックの生み出し方まで大充実。

しかし、最も興奮するところは『殺人方程式―切断された死体の問題』(講談社文庫)のメイントリックがどういった思考を経て出来たのかを綾辻さん自身が時系列で丁寧に解説してくれている部分です。ここは本当に素晴らしいです。論理的解決が待つトリックは論理的思考を経て創られている。このあたり前の事がここまであからさまに示される衝撃は何とも表現できません。これはお勧めです。もちろんネタバレ(ネタそのもの)してますので、『殺人方程式』を読んでからということになりますが……。

どうやら『ポンツーン』では03年8月頃〜04年10月頃の間で「ミステリの書き方」シリーズを連載していたようです。ホームページで確認してみるとこれまた面白そうな作家さんが目白押し。ちなみに『ポンツーン』のバックナンバーは200円で幻冬舎から取り寄せ可能だそうですよ。

殺人方程式 〈切断された死体の問題〉
綾辻 行人
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6号 未来は誰にも分からない

コンニチワ。今回はこちら『堕天使殺人事件』(新世紀「謎」倶楽部、角川文庫)

通常、ミステリにおいては、はじめに作者から読者に謎が提示されるわけです。読者は話を読み進める中で、その謎の解答を探りあてなければなりません。当然、作者は謎の解答を始めから持っているわけで、形としては読者が謎に挑戦するという事になります。しかし、もし作者もその謎の解答を知らないままに小説を書いてしまったら……。こうなります。リレー形式の連作ミステリ小説『堕天使殺人事件』

二階堂黎人、柴田よしき、北森鴻、篠田真由美、村瀬種継、歌野晶午、西澤保彦、小森健太郎、谺健二、愛川晶、芦辺拓。全体での事前打ち合わせなし。前回の内容を踏襲する。自分なりの展開、解決編を書き留めておく。などのルールの下、総勢11人のミステリ作家が暗中模索、五里霧中で書くことになってしまうのです。読者が解答を出そうなど夢のまた夢、それもそのはず作家自身、先をしらないのですから。最後のほうまで事件が広がっていくばかりで、収束の気配すらありません。

しかし、結末はきっちり納得のいくところに収まっているのです。これはもう素晴らしいとしか言いようがありません。これは面白いです。読んでいると各作家の個性も良く分かります。遊び心満天のトリップミステリをご賞味あれ。

堕天使殺人事件 (角川文庫)
新世紀「謎」倶楽部
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4号 作家の手は柔らかいのかい?

コンニチワ。今回はこちらを。島田荘司『島田荘司全集1』(南雲堂)。これ、はじめて島田先生のサイン会に参加したときの本なのです。島田先生といえば、ハードボイルドイメージ。当然、乗り物はハーレー、革ジャンロックなのでは……そんな妄想を広げているさなか、舞い込んだサイン会の話、これは良い機会だと参加してみたのです。

実際に会ってみてびっくり。まずもって声がすごく優しい音色なのです。はじめの挨拶の「コンニチワ」であっという間に別世界へ。そこでふと思ったのです、何を質問すればよいのだろうと。これが非常に難しい。質問内容なんてさっぱり出てこない。どうすれば良いのだろう。そもそも尊敬する人へ突然の質問なんてあるわけないのです。そんなことをよそに先生はサラサラとサインを書いてゆき、遂に質問タイムに突入。そんな追い詰められた状態で、私が質問したのは「今、どんな音楽聴いてらっしゃるんですか?」今ここで文章化してみて、自分がいかに緊張していたかが分かるというものです。しかも、何と答えてもらったかは覚えていない。あの質問で何がしたかったのやら。

そして最後は握手。島田先生の手はやわらかいです。スクランブルエッグを上からポンポンとやった感じとでも申しましょうか、ふわふわなのです。どうすれば、あの手であんなデカイ話が書けるのやら。そんなエッグハンドをお持ちの島田先生の作品の一押しは、もちろん『斜め屋敷の犯罪』(講談社文庫)です。気が向いたら是非。

斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)
島田 荘司
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3号 血筋

コンニチワ。今回はこちら。森博嗣『そして二人だけになった』(新潮社)

私の実家は、祖父、母とミステリを好んで読み、今思えば家にかなりミステリ小説があったように思います。そして本を読むときのスタイルも似ているようで、私を含め三人とも文庫を読むときは必ずカバーをはずし、むき出しの状態で読むのです。血筋というものをあらためて実感してしまいます。そんな状態の実家であるとき、この本を見かけたのです。手にとってチラチラみていると、後ろから母の声が。「それ難しくてよ〜分からんけど、面白いで」と。

親から本を薦めてくるなんてことはめったにないことなので、ここはひとつ読んでみますかと思い読んでみますと、これが面白い。巨大なコンクリートの塊のなかで繰り広げられる不可能犯罪、最後まで繰り返されるどんでん返しと、非常に完成されたミステリでした。森博嗣のミステリ作品といえば個人的にふわふわしたイメージを持っているのですが、ことこの作品に関してはまさにコンクリートのようにガチガチに練られた作品です。それでいてミステリを初めて読む人でも、スイスイ読めてしまうエンターテイメント性も秘めていて、マニア受けする作品にとどまっていないところも素晴らしいとこ。

なんだかんだで親の好みというものは意外と子供にも受け継がれているようで、もし機会があれば親が昔好きだった本を訊ねてみるのもいいかもしれません。

そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)
森 博嗣
新潮社
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2号 ミステリ12ヶ月

コンニチワ。今回はこちら。北村薫『ミステリ12か月』(中央公論社)

私もミステリはちょこちょこ読みますが、いまだに何を読んでよいやらと途方に暮れる瞬間があります。好きなものを好きなように読めばよいと思うのですが、なかなか難しかったりします。そんな時に便利なのが、いわゆる読書案内の本です。めくってみて、面白そうなもの、名作であると書かれているもの、などなど興味のあるものを選んで読んでいけばよいのです。当然、過去に自分の読んだことのある本も登場するわけですが、それでも著者はこの作品に対して、こういった読み方をするのかと新しい楽しみ方もあるわけです。

そこで今回の『ミステリ12か月』についてですが、タイトルからもわかるようにミステリ作品の読書案内エッセイです。もともと北村薫さんがミステリにめっぽう強いので、話が面白いのです。

しかも、大野隆司さんのネコの挿絵がすごく可愛いんです。海外、国内を問わず古典的名作を集めているだけに、内容が固くなりそうですが、この挿絵一つで読んでみようかなという気が倍増するのです。後半にある有栖川有栖氏との対談も面白く、大満足の一冊。ネコとミステリの相性の良さをあらためて実感しました。

ミステリ十二か月 (中公文庫)
北村 薫
中央公論新社
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1号 黄色い部屋からコンニチワ

コンニチワ。このコーナーではミステリとその周辺について書いていきたいと思います。第一回目という事で、コーナーのタイトルの「黄色い部屋」について少々。

「黄色い部屋」とは何か。それは、1907年『オペラ座の怪人』で有名なガストン・ルルーが書いた、世界で初めて「密室」を登場させた本『黄色い部屋の秘密』からとっています。ポーの『モルグ街の殺人』やコナン・ドイル『まだら紐』まんかも密室といえなくはないですが、密室としての完成度としてはやはり『黄色い部屋の秘密』が上をいっているのではないかなと思います。その意味でやはり、世界初の密室本の名に値すると思います。

その「密室」なんですが、ミステリで使われる場合、外から入ることのできないと思われる部屋のなかで、あきらかに殺人と思われる死体がある。というのが基本パターンです。ミステリといえば密室と思ってもあながち間違ではないほどにミステリにとって魅力的な謎です。当然、密室を扱わずとも名作である作品も数多くありますので、おいおい紹介できればなと思っています。

「黄色い部屋」が閉ざされ、そして開かれ続けて、来年で100年。何か面白いイベントが用意されているのでしょうか?ミステリファンとしてはそんな期待を持ってしまうものです。

ちなみに今は、嶋中文庫や創元推理文庫で手に入ると思います。どちらもタイトルは『黄色い部屋の謎』になってます。ミステリ全般の評論として書かれた都筑道夫『黄色い部屋はいかに改装されたか?』晶文社なんていう本もでてきます。

黄色い部屋の謎 (創元推理文庫)
ガストン ルルー
東京創元社
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