西荻の風 (花本武)

37号 いんじゃないの

このところ満腹中枢が異常をきたしている。すごくお腹がへったなあ、とおもって多い目のごはんを用意してもお茶碗一杯で、もうお腹が苦しいよお、ってなったりする。自分が心配だ。

元読売ベルディのセンターバック、柱谷テツジ選手がたしかおっしゃっていたかのようにおもうのだが、真価を問われるのは、調子の悪いときにどれだけマシなプレーができるか、という部分。はっきり言って今ぼくはいろいろ逆境でまいっちゃってるんですよ。それこそ(どれこそ?)エロマンガ島にでも旅立ちたい気分。長嶋有さんの小説はやっぱり面白いなあ。

今日はとことん呑もう!と決めた日が10月には、二回あったんですけど、二回ともとことん呑まなかった。仮眠をとって始発で帰って、もっかい仮眠で出勤したり、なんでとことん呑もう!っておもったのかさっぱりわからない日だったり… こないだ母親から留守電が入ってて、なんだろうとおもったら、変な口調で「別に用はありませんけど、電話しました」って三回くらい強調しながら、ぼくの住む街にきたけど休みならランチでもしようとしたようだ。

昨夜、眠る直前におもいついた他愛ないメールの内容がどうしても思い出せない。それを送信できれば、今よりほんの少しだけ親密になれるかもしれない。惜しいことをした。いい人をやめて楽に生きようだなんて、ぼくには度し難い価値観だ。

36号 ブックショッパーズルール

本屋が本屋にいる。伊野尾さんの短歌じゃないですが、本屋はけっこう本屋にいるものです。そして発見の多い本屋に本屋が入ってしまうと、脳波は千々に乱れる。

なんじゃこりゃ?店長の蔵書叩き売りコーナー?!なんてあると、もう大変、そんなのアリなのか?取次の人とかに何か言われんのか?などと雑念がわいて出る。どこのお店に行ってきたかわかった人、あなたは業界の人。 そうゆうお店が発行に一枚噛んでるミニコミがある。それが「ほんまに」です。手元にある11号の特集がズキュンとくるんですね。題して「非カリスマ書店員座談会 10年後も本屋でメシが食えるのか」参加されてる方々は神戸の書店員6人。書店をとりまく現状に対してかなりシビアな意見が飛び交ってます。

なにかと話題の電子書籍について、電子と紙の本はまったく別物で紙の本はなくならない、とここまでは、誰もが言うこと。そこを前提として、なくならない部分だけを売って本屋がやっていくのは確実に無理、と断言。ぼくは電子書籍に対して時々で、楽観したり悲観したりのブレがずいぶん大きいんですが、唸ってしまいました。

他にもおなじみの文庫順列問題や、総量規制、書店員の再教育などにもふれてますので、ざっと今書店で何か起きているか見渡せる内容になってます。「ほんまに」は神戸発ですが都内でも手に入ります。残念ですがルーエにはありません。う〜ん、また課題が見えてきた…

35号 ここで楽しもう

ロックとブック。これは本質的に同義である。とゆうかっこいいけど、何が言いたいのかさっぱりわからない導入をおもいついたので書きました。今号はスペシャルイシュー扱いで全面的にロックのみで誌面を埋めました。遡れば8号で映画をフィーチャーして以来の特別号です。なんとなく読み返したら、ちょっと泣ける記事があった。

空犬さんが書いてくれましたが、私共ひょんなことからバンド活動をはじめました。なんで本屋がバンドを?と仮にロッキンオンジャパン編集部が取材にいらしたら、本屋でプロレスやったり落語やったりする人もいるからね、とか斜に構えて煙にまいてみよう。

そんな私共のバンド「ブックス・ピストルズ」は、そのネーミングを裏切ることなくパンクですよ、パンクロック。メンバーの大半が楽器できませんから。パンクロックが好きだ。中途半端な気持ちじゃなくて。

バンドは生き物なので、長生きするものもあれば短命のもあります。解散の理由の常套句「音楽性の違い」を最近耳にする機会が少ない。よく聞くのは「無期限活動休止」という言葉。あわよくばもう一回やりたいという含みを持たせた下心が感じられますね。そうゆうちょっと下世話なバンドの話に興味のある人には、こちらがうってつけ。「バンド臨終図鑑」(河出書房)お盆休みに実家にでもかえって縁側に座って足をぶらんぶらんさせながら、横にスイカと麦茶を置いて読みたい一冊ですよ。

34号 編集発行人から深夜の弁明

「深夜の弁明」というのは、清水義範の短篇集です。初期のものですが、小慣れていて作家の後の多才が端的に顕れた重要な一冊かとおもってます。1988年に実業之日本社より刊行されたのを親本とし、1992年に講談社文庫に入りました。1999年には、徳間文庫としても装いを新たに刊行されるなど確かな人気が窺われるのですが、残念ながら目下いづれも絶版扱いとなってしまっているようです。

清水義範という作家の評価は安定していると言えますでしょうか?日本におけるパスティーシュ小説の開拓者として、唯一無二の存在である彼に対して文壇と大衆は真っ当なポジションを与えてきたと言えますでしょうか?ファンからもそうでない人からも名作の誉れ高い「虚構私立不条理中学校」であっさり直木賞落選の報は、大きな落胆と達観をもたらしました。(「金鯱の夢」「柏木誠治の生活」でもノミネートこそされるが、受賞に至りませんでした。ですがこの二作に関しては、地味で爆発力に欠けることもあり我々の落胆も比して小さくおさまりました。一部では逆に「柏木誠治の生活」の徹底した地味さが直木賞選考委員たちを騙しとおして受賞に至るのでは?という期待も若干あったりもしました。)結局清水の受賞歴は1988年の「国語入試問題必勝法」による吉川英治文学新人賞と2009年の「名古屋文化の神髄紹介とユーモアあふれる作風」による中日文化賞といういささか微妙なものにとどまっていると言わざるをえません。

賞や冠が勲章が作家の誉れではありません。作品が今も広く読まれているか。その部分こそが重要だとおもわれます。たしかに清水義範の初期の作品の大半は絶版の憂き目を見てはいますが、ちくま文庫で「清水義範パスティーシュ100」として全6巻で集成されております。その中に短篇集「深夜の弁明」に収録されていた短篇「深夜の弁明」が収録されているかどうかは、わかりませんが、「深夜の弁明」について語りたいとおもうのです。(何分深夜ですし、もうくたくたに肉体が疲弊していることもあって、調べがつかないというのが理由です)

「深夜の弁明」という作品に登場するのは、〆切に追われ、その間際で悶え苦しむ作家です。(察しをつけといていただきたいのですが、朧な記憶で書いてます)真夜中、何がどうあっても、明日までには、原稿を上げなければならない状況。編集者も切羽詰まってます。どうしたわけか書けない。絶体絶命の作家が筆をとった。その原稿には延々と書けないことの言い訳が綴られていた。

そもそもこのページは、「二ヶ月連続原点回帰ISSUE本物語@」という企画で割かれるべきところです。担当は私、花本です。内容も編集部内で充分に練ったうえに、「本がいろんなところに旅してその感想を一言述べる」ということで一応のまとまりを得たはずでした。手元のノートに記事のための素材があるので、公開いたしましょう。

火星年代記「火星行ってきました!」 竜馬がゆく「土佐行ってきました!」 1984年「1984年にタイムスリップしてきました!」 ミッキーマウスの憂鬱「ディズニーランド行ってきました!」 テンペスト「首里城行ってきました!ありませんでした!」 ニッポニアニッポン「サドトキセンター行ってきました!」不思議の国のアリス「不思議の国行ってきました!」 ダビンチコード「ルーブル行ってきました!」 西村京太郎「電車乗ってきました!」 「世界の中心行ってきました!で、叫んできました!愛!!」 「ナルニア国行ってきました!」 魏志倭人伝「邪馬台国行ってきました!卑弥呼美人でした!」

他にも断片的に、ベーカー街、新宿鮫→新宿、など書かれているのですが、私はこれらをどうすればよかったのでしょうか?もう寝たいのです。くたくたなのです。見切り発車じゃだめなのです。このような形での特集記事になってしまって関係諸子には大変申し訳なくおもっております。今後みなさまのご期待に添えるよう、編集部一同、一層の尽力でより良い誌面を作っていく所存です。

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深夜の弁明 (講談社文庫)
清水 義範
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33号 渋川春海になりたくて

あまり声を大にして言いたくありませんが、「ルーエの伝言」、よくやってるな、という気がします。褒めてくださるのに躊躇ってませんか?

外国文学アレルギーはいねがぁ!?とナマハゲにすごまれる夢に恐怖して少し勉強してみることにしました。あまり声を大にして言いたくありませんが、外国文学、苦手です。事実の指摘もしておけば、外国文学、売れてません。でもよく考えていただきたい。地球上の文学作品の中で日本文学が占める割合なんてタカがしれているのに、書店の外国文学の棚っていかにも閑散としては、いませんか。そういう状況の中で、今月寄稿してもらった紀伊国屋書店、新宿本店のピクウィック・クラブの挑戦はあまりに鮮やかで、痛快に感じられます。彼等はしっかり結果を出している。素晴らしい。

ひるがえって、外文なまはげに追われてる自分はどうだ。若い彼等の活躍を横目にどう出る!?上等だ!勉強してやるよ!!というわけで始めたのが「立川読書倶楽部」です。(もっと突発的な成り立ちだったことを知る人もいますでしょうが、こんな風でもあるのです) 敬愛する先達、立川のS氏を三顧の礼(くらいの気持ちで)その気にさせて、隔月で勉強会をひらいております。同志をつのり、毎回一冊の課題図書を巡って異論暴論大激論でございます。ブログも要チェックや!→『立川読書倶楽部WEB会報』http://ameblo.jp/tatikawadokusho/

32号 爽やかな愚者

上野の書店で「めくる」を発行している同志Hさんが突然結婚してしまって、すごいオイテケボリ感を味わっている花本です。結婚になにかコツのようなものがあるのなら伝授してくれてもよさそうなものだ。もうおれには「ノッツェ」しかないのか?お婿さん願望を強く刺激された32歳(独身)。「ルエ伝」は、そんなのが編集発行している定期刊行誌だ。(不定期ではないんですよ!)(あ、ちなみに今夏も「メクルエデン」出します!)

ちょっと今回は自戒の念と心理的なデトックスを兼ねて、こねて、まるめて、まっさらな新しい自分に生まれ変われるように、自分にダメ出しをしていくつもりだ。そんなのに付き合わされる読者の身を案じないところがいきなり、人としてダメなんだろうよ。どうせ俺なんて…とか言って同情をひこうとするところとか、自己愛の塊のような、云々云々。実に後ろ向きだぜ。人称が「おれ」だったり「だぜ」とか言ってるけど、実はすごく「乙メン」でナイーブなところがある、みたいなアピールをたまに無意識にしている自分をほんと許したくないよ!

そもそも漢(オトコ)気を曲解してるとこがあって、都民税住民税を督促状がくるまで払おうとしなかったり、目上の人に微妙なサジ加減でタメ口きいたり、西荻住まいをステータスだとおもっていたり、それのどこが漢(オトコ)なのか!と一度一喝してやってくれ、140文字以内で!!

30号 怒りと響きと憤り

編集後記ってそもそも何であるのかという根源的なところから今回は、はじめてみたい。後記というくらいだから編集が済んで、いや〜やれやれ今回も無事に原稿はそろい、パイロット版が仕上がったわい、という時点で記すのが筋ってものではなかろうか?で、あるからしてここのコラムを自分が仕上げる〆切が通常のレギュラー原稿の〆切と同日であってよいものだろうか?否!じゃないですか?ねえ、みなさん。私は同人たちの原稿が全てそろってからこのコラムに手をつける。それを横暴な編集長がふりかざす特権とは、断じて言わせまい。

以上の文章を記した今、手元に原稿はそろっていない。どうなっとんじゃ!!! 気をとりなおして、ここ最近読んだ本のことを何の衒いも狙いもなく、書く。そいつがおれのやり方。 ■福満しげゆき「僕の小規模な生活B」講談社 自分マンガのオリジネーター、福満さんのメインシリーズ。今回はなんと妻がっ!あとは読んでのお楽しみ。あ、青林工藝で一巻だけ出て、止まってた驚異のサバイバルストーリー「生活」がいろいろあって講談社から新装完全版で近日発売します!初回限定の妻フィギュアが買いなのかどうか、四六時中悩んでます!

あとニルヴァーナのムックとイングロリアスバスターズがらみの本について書こうとしたけど、編集上の愚痴で紙数が尽きた。次回!

29号 毛問題

頭髪のことを気にする人は多い。頭髪のために身銭を切って投資し、なんのことなし、毛をプロに切ってもらったりしてます。

さみしくなる頭髪に時に異様な未練をみせるのは、主に男性です。頭髪が薄くなるのは云わば自然現象ですが、その進行状況に大きな個人差が出ることに問題の本質があります。みんながみんな同じように、年輪を重ねるごとに毛が抜けていってもいいはずですが、人類は進化の過程でそのようなパターンを選択しなかったようです。

幼いころには、歯は健やかで無邪気に抜けていきますが、毛となると事は一挙に過敏でシビアな問題を内包します。

若気に至る際の自意識は髪にアイディンティティをまぶし、頭上を重要なメディアとして機能させんと様々なアイデアと工夫を盛り込もうと研鑽を重ねます。色を変えたり、分け目を作ったり、立てたり、ギザギザにしたり、ラインを入れたり、クルクルにしたり、無造作にしたり(作為的に)して異性の気を引くための本能を発揮してるのか、純粋な自己チューンナップなのか、盆栽感覚の趣味なのかわかりませんが、髪を重要視します。

でも年月は容赦がありません。そこでこんな本→「専門医が語る毛髪科学最前線」(集英社新書)ついにおれにもやってきちゃった人は、電気グルーヴの偽悪的な名曲「ザ・ケトルマン」をきいて、おニューのおれよ、こんにちは!

28号 よんだくれ

今年の夏はいろいろな思い出を作ることができました。新潮文庫を読んだり、新潮文庫を読んだり、ときには新潮文庫を読んだりして過ごしました。ルエ伝編集部は夏をエンジョイした人に対して、ときに冷ややかな対応を余儀なくされたものです。

少々語弊がありました。新潮文庫を読むことは、エンジョイサマーの範疇ではないものの、有意義で愉快で時には爽快ですらありました。なんと言っても新潮文庫の夏の100冊には、永遠のスタンダードであり語り継がれる古典がみっしり入っております。書店員として最低限読んでおきたい気もしていたけど、どうにも手が伸びなかったあの一冊たちと我々は幸福な邂逅をとげることができたのです。

ライトノベルを常食としている芋福くんが中島敦を懸命に読む姿には、ひどく勇気づけられたものです。ちなみに私は中島敦を読んだことがありません。ここで話がぐぎっと展開するのですが、私はライトノベルをいまひとつ楽しむ術を知りません。あろうことか、かつては、露骨に見下してました。今はそれを反省してます。

そんなライトノベルの人気作に「ベン・トー」というシリーズがあります。スーパーの半額弁当購入にスポーツ感覚でシノギをけずる同好会を描いているようです。なんて自由な発想なのでしょうか。芋福くんもときわ書房の宇田川さんもお気に入りとのこと。 本当に新しい文学がどこから生まれるか。まだまだ盲点はあるのかもしれません。

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27号 草食系ですまん

すっかり広く定着した感のある「草食系男子」。わたしなんかは、その言葉ができるずっと前からの生粋の草食系男子ですよ。そのジャンルのさきがけと言えるかもしれません。急先鋒と言っても差支えないでしょう。「草食系男子の急先鋒」。それがわたしです。貪欲的なまでに草食。草食であることに対して「肉食的」。

この今年の流行語大賞をさらうであろう「草食系男子」というワードを敷衍するきっかけになったのは、この本。「草食系男子の恋愛学」森岡正博著(メディアファクトリー)。一年くらい前に刊行されるや速攻、読ませていただきました。わたしクラスの草食系になりますと読むべき本はすぐに誰かが教えてくれますので、積読本が膝丈くらいになってきました。ちなみに読めとメールしてきた大阪の書店員T氏は、草食なんだか肉食なんだかよくわからない雑食系です。

表紙にマンガ家の浅野いにお氏を起用した巧さもさることながら、内容も実にしっかりしてます。著者は哲学者ですが噛み砕いた書き方で「女性に優しくする」という当たり前の恋愛メソッドを、丹念に再解釈させます。わたしが関心した部分は実に具体的で、女の子にとって夜道はけっこう不安なので、ちゃんと送ってあげよう、ってところ。

紙幅が限られてきたので、駆け足で。わたしは「メガネ男子」の急先鋒でもあるが、昨今流行りの「弁当男子」ではない。中学生の頃から洗顔料は「UNO」を愛用している。先日、草食系に磨きをかけようと、ストレートパーマにしようとして失敗。「天パ男子」の急先鋒に返り咲く。以上!

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26号 編集長が病い

この度、ぼくがいろんなところに書いてきた書店員はかくあるべし、的な上から目線な一連の文章が一冊にまとまり、暖冬舎さんから上梓されることになりました。

タイトルは「モテる書店員、三十六の習慣」です。担当編集の鈴宮晴生さんとは旧知で、お互い石橋を叩いてわたってきた間柄です。鈴宮さんといえば、「西友はなぜKYなのか?」などのヒットでも知られる業界のカリスマ編集者であると共に、書店ウォッチャーとしても、お茶の間では人気を博しております。そんな彼が今回目をつけたのが、かく言うぼくだったというわけです。

執筆は常に二人三脚でした。って言うか、彼が書いてました。俗にいうところの別人格(ペルソナ)による口述筆記。基本、こっくりさんの要領で仕上げた原稿が中心です。3部構成になってまして、第一部は黎明編で、数々のバイトを経験した末に書店に流れ着くまでが描かれます。クライマックスは面接で誕生日が同じというだけで採用された実話。圧巻です。二部は、様々な業界の人と出会い、たまに顰蹙を買う様子が赤裸々に描かれます。そして三部では、最年少川中島賞作家の鳩矢りさ子さんとの特別同窓会対談を収録しております。

サイン会の予定は今のところありません。誰かよんでください!なんちゃって(?笑)

25号 火焔太鼓

給付金をどう使おうか、時々考えます。景気対策がそもそもの発端なので、貯金するのは、邪道ですよね。金は天下のまわりもの。消費するのが国民の義務といっても差支えありますまい。一時期は、貯金に凝っていたんですが、なかなか増えなくて、むなしくなってほどほどにしようと軌道修正しました。

小学館のCD付きマガジン「落語 昭和の名人決定版」を欠かさず買ってます。古今亭志ん生師匠のファンキーな噺っぷりは、腰にきますね、フロアキラーな落語です。「蛇から血が出てヘービーチーデー」なるギャグの斬れ味たるや、レッドカーペット観てる場合じゃないですよ。師匠は生き方そのものが破天荒でした。宵越しの銭は持たない主義。マクラでいつ車にぶつかって死んじゃうかわからないんだから、貯金なんてしねえよと嘯く。それが粋ってもんです。

敬愛するみうらじゅん先生も「損ブーム」がくるとおっしゃっていました。致命的な損をしたくはないのですが、プレイとしての損は快楽です。つまり無駄使い礼讃!贅沢は素敵! で、文春文庫「快楽主義の哲学」。こちらはあの澁澤龍彦御大が、ざっくばらんに人生論を展開する好著です。いろいろな快楽があるようにいろいろな生き方がある。ただ後悔を残すなよ、と。

さぁ、みなさん、給付金で立食パーティーならびに仮面舞踏会をひらきましょう!

24号 「愛情通信」をとにかく推す

フリーペーパー製作はなかなかに孤独な作業です。常に自分で自分を鼓舞しなければ仕上がりません。しかしながら当フリペ「ルーエの伝言」は寄稿者や、編集部員の力を借りて、どうにかこうにか成り立っております。つまり自分はフリペ製作における本当の孤独を知りません。

先日近所の中古CD店でおもわず手に取ったのが「愛情通信」というフリペでした。内容を確認する以前に、全8ページ文庫サイズ、微妙なアナログ編集、これは、あまりに「ルーエの伝言」に似てる!衝撃でした。もらって帰って目を通してまたびっくり、おもしろすぎる!

連絡をとりバックナンバーを取り寄せて、自分と同年代の方が製作していることがわかりました。ミニコミ「孤立無援」も購入。ライターのナカダヨーコさんが一人で手掛けている「愛情通信」は「ルーエの伝言」より歴史が長く、一貫してアグレッシブな誌面作りをされています。ナカダさんは卑屈を芸の域にまで高めんとされている方なので半端なことは言えませんが、その姿勢は尊敬に値します。

時期によってはこれの隣に「愛情通信」が積んであるはずです。とくとご覧あれ。こちらが「愛情通信」のウェブになります。 →http://www.geocities.jp/aijoutsuushin/

23号 諸葛亮孔明→怪人二十面相

三国志。それは永遠のロマンです。「レッドクリフ」、ご覧になりましたでしょうか?急いでください。来春には後編が公開されます。なぜ太古の中国で覇権を争った英雄譚が深く日本人に愛されるのか?要因はいろいろ考えられますが、とりあえず重要なクリエーターを二人挙げることは容易でしょう。吉川英治と横山光輝です。共に国民的作家、国民的漫画家といって差し支えない二人の代表作は三国志に他なりません。著者本人が物語に深く傾倒して、作品と心中せんばかりの熱量を感じるのはわたしだけでしょうか。

三国志の正典は二つあるといえましょう。史実に沿っているとされる陳寿による「正史」と羅貫中によるふんだんに脚色された見せ場の多い「演義」です。「正史」は勝者の視点で書かれたものなので、三国時代の最終的な覇者、魏の曹操を中心に描かれます。コミック「蒼天航路」は正史をふまえているので曹操が主人公というわけです。なじみの深いであろう劉備を中心に勧善懲悪なストーリーが展開されるのが「演義」で吉川&横山三国志はこちらを踏襲しているのですね。

どちらがどうというわけではありませんが、わたし個人は史実などどうだってよくて(大昔の話ですし)、豪傑、名馬、天才軍師、絶世の美女、散ってゆく英雄達に萌えていたいだけなんです!

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21号 ララーラー2人で〜

自明のことですが、世の中には結婚してる人がたくさんいます。ぼくの家族の中だけでも父も母も姉もしています。ぼくもしてみたいんです。「してみたい」と言っては、衝動的ですが、憧れの強さが表れてると自己解説します。

文壇一濃い夫婦として、車谷長吉・高橋順子を挙げても異論はありませんね?車谷氏は執筆に集中するとズボンを穿くのを忘れる私小説家(今は廃業中?)、自称反時代的毒虫。露骨に書きすぎて提訴されたりする氏と結婚する勇気はいかばかりかです。 高橋順子の詩で「あなたなんかと」というのがあります。その中で二人の関係をこのように綴ってます。 「完全な残り物同士 『偏屈と物好き』の組合わせでありますから」嫁も相当タフです。

先日、小学校の同窓生に会う機会がありました。何かにつけ泣いてしまって、先生を困らせていたマー君が今では、立派なインディーズヒップホップ界の雄になってました。そのうえ来年には、結婚するとのこと。置いてけぼり感を味わいました。

いつの日かありったけの実感をこめてウルフルズの「バンザイ!」を歌うために、ガッツだぜ!!

20号 路上観察者の眼

エキサイティングな散歩をしたいのである。

地井武男、阿藤海の散歩は、日本の正しい散歩術を踏襲している。生活圏から少々離れた見ず知らずの駅で途中下車して、その街の人の温かみにふれたりして、ちょっとしたスケッチをしたためる。のどかな空気にとけこめるキャラクターが必要で、それには高度なテクニックを要する。んじゃないかな?

それはエキサイトではないのか?至極エキサイトである。

また赤瀬川原平式の散歩というのもある。街(路上)に潜む無意識が生むオブジェをカメラで採集してまわる。 例えば四谷で発見された物件「四谷純粋階段」。とある建物の外壁に沿ってコンクリの五段ほどの階段がある。登るとわずかばかりの踊り場があるだけで、直進するとまた五段ほどの階段を降りることになるだけなのだ。かつては踊り場に扉があって建物の中に入れるような設計だったのだが、不要になり扉部分を埋めてしまって、そのような状態になったものとおもわれる。

しばしばノスタルジーを孕むそのような物件を赤瀬川は、「トマソン」と名付けおもしろがる。その辺はちくま文庫「超芸術トマソン」に詳しい。トマソン探しから派生して、図らずも考現学に接近した学問「路上観察学」については、同じくちくま文庫「路上観察学入門」に詳しい。

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19号 酒豪の品格

いせや本店がついに営業再開しましたね。ビールの季節は、もうすぐそこまで来ております。はやく「ルネッサ〜ンス」と乾杯したいです。そんな折も折、高田渡「バーボン・ストリート・ブルース」0ちくま文庫を読みました。

吉祥寺の書店で今激しく売れている文庫本の一つなのではないでしょうか。 吉祥寺には幾人かの名物男が存在しますが、存命中の高田さんもその一人だったのかとおもわれます。相当の酒豪だったようで、時間があると飲み屋に直行してしまう。70年代80年代はとにかく四六時中酔っていたようです。そういう時代だったのでしょうか。(そういう時代ってどういう時代?)吐いてるところに、背中をさすってくれる人がいる。「どなたか存じませんが、ありがとうございます」「お父さん、息子の漣です」なんて遣り取りも。ちょっとまれなタイプの明るいアル中なんですね。悲壮感がまるでない。らもさんやはらたいらみたいな創作の苦しみと表裏をなす感じが微塵もない。案の定肝臓悪くして入退院を繰り返すようになっても、「死ぬまで生きるだけ」なんて言って飄々としている。すこぶるカッコイイ!

本の次は、やはり高田さんの「歌」を聴かないといけません。どこから入ればいいのかいまいちわかりませんが、現代詩に曲をつけた作品が非常に気になります。そこからいこう!

バーボン・ストリート・ブルース (ちくま文庫)
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18号 ガラスの30代

今年は源氏物語がメモリアルな年のようで、関連書が続々出てます。いろんな作家が現代語訳に挑んでます。古くは谷崎潤一郎に、与謝野晶子。最近のものでは、田辺聖子に瀬戸内寂聴。マンガでは、大和和紀「あさきゆめみし」、エロ描写に定評のある江川達也の源氏、変わり種では、幻冬舎の「まろ、ん? 大掴源氏物語」があります。

著者の小泉吉宏さんの代表作は「シッタカブッタ」のシリーズです。壮大な作品をかみくだくことにかけては、天下一品なわけです。その小泉さんが一大タペストリー的文学「源氏物語」を1帖8コマ、全54帖のマンガ版に仕立て上げてます。ブッタにはブタのキャラクター。光源氏は、、、栗です、。マロン。まろ、ん?

これちょっと不安になるくらいわかりやすいんですけど、いいのでしょうか。この千年紀の世界で最高の文学作品とごく一部の方が認めているのに。それは誰あろう、丸谷才一、三浦雅士、鹿島茂のお三方でございますね。光文社知恵の森文庫「千年紀のベスト100作品を選ぶ」で見事一位に輝いてます。それにしても無茶な試みです。とても素晴らしいことではありますが、一方で日本の文学は千年たっても源氏を超える作品を生み出せてない、という指摘もあります。

ちょっと話は戻りますが、マンガで源氏やるなら、江口寿史版とか読んでみたい。江口さんが描く女の子にはキュンとします。現代語訳やってほしいのは、がぜん辛酸なめ子!!

まろ、ん?―大掴源氏物語
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17号 シュールでリアルなワールド

摩訶不思議な視覚体験をするとアルファ波が出て、心安らぎませんか?エッシャーの「滝」という有名な絵があります。だれもがどっかで見ているはずです。ある建築物に水が流れていて、先では滝となって落下しまた同じ水路に注がれ、その水がまた滝に向かって流れていくという目の錯覚を利用した現実ではとうていあり得ない絵。ぼーっと眺めていると次第に意識が遠くなって、たいていのことはどうだってよくなります。

シュルレアリスムの偶然性や無意識下の夢を捉えた超現実的な作品は、たいてい出ますよね、アルファ波。フロイトの精神分析のありがたい副産物です。その芸術運動を牽引したのは、詩人(絵も描いてるけど)のアンドレ・ブルトンでした。まずは言葉だったんですね。そのブルトンが見出した運動以前の前史的な詩人にロートレアモン伯爵がいます。資料も遺した作品も少ないのですが、後の詩人への影響は絶大です。「マルドロールの歌」における「手術台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会いのように美しい」というフレーズはシュルレアリスム詩の象徴になります。ここだけ読むとクールな感じしますが、「マルドロールの歌」はケルベロス並に荒々しい長編詩です。ちくま文庫「ロートレアモン全集」を読んでのけぞってください。一巻全集1365円はお買い得!

ロートレアモン全集 (ちくま文庫)

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16号 ガールズ・ビー・アンビシャス

生まれ変われるとしたら、男性のままが良いか、女性になることを望むか?自分は迷うことなく男性を選びます。社会における男性優位のシステムの名残りにすがりたい魂胆は毛頭ございません。ただ女性というか女子、ひいてはガールの「たいへん」具合に大いに怯えているのです。

河出書房新社で「14歳の世渡り術」という中学生に向けて書かれたシリーズがあります。理論社のよりみちパンセシリーズの後追いではありますが意欲的なラインナップが揃っております。(共にメインの読者層が中学生かどうかは疑問ですが)その3月の新刊、辛酸なめ子さんの「女子の国はいつも内戦」を読みました。以前に辛酸さんにはフリペ「LOVE書店」の企画でカバー折りを伝授させていただきました。デビュー間もないころから、エロ本の編集をしていた友人に淡々と毒を吐くすごい書き手がいるときき、注目していたので感激でした。

「女子の国〜」は中学生版「女性の品格」という例えはありえないものの、広く読まれるべき力作です。女子独特の派閥の形成の過程を幅広い取材で分析していて、改めて女子の「たいへん」さを思い知りました。中学生よりはOLさんやなんかが、笑いながら円滑な人間関係を築くための処世術として読む本かなとおもいました。

女子の国はいつも内戦 (14歳の世渡り術)
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PHP新書で「旧皇族が語る天皇の日本史」という本があります。「皇室へのソボクなギモン」で辛酸さんが質問攻めにした竹田恒泰さんの真面目な著作です。これには辛酸さんのイラストが寄せられたりしていてびっくりしました。「皇室への〜」と共にサブカルの棚でも展開してます。

旧皇族が語る天皇の日本史 (PHP新書)
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15号 電車でゴーイング江ノ島

人生に必要な知恵をすべて電車内で学んだ人は少ないでしょうが、いわゆる鉄っちゃん(鉄道マニア)の方々にとって電車内は、特別な空間のはずです。かく言うぼく自身は見習いか、それ以下の下っ端鉄っちゃんなので、漠然と好ましい空間であるとしか表現できません。鉄っちゃんにも色々なタイプがあってかなり細分化されていることは、つとに有名です。大きく分ければ「乗り鉄」と「収集鉄」になるでしょうか。時刻表を精読する向きもあるようです。もちろんそれらを全て兼ね備えていたり、バリエーションは多々あることでしょう。ぼくの場合は俄然、乗ります。乗りたいとおもいます。その車内でどのように過ごすか。ここからも嗜好は分かれます。車窓からスクロールする風景を眺めるも良し、読書するも良し、駅弁なお良し、そのあたりはオールマイティーです。とにかく楽しい。但し存分にそれらを楽しむにあたっては、厳密な不文律があります。 「独り」であること。

ステディは排除してください。そして向かうは「海」。京浜急行で三浦海岸。小田急線で江ノ島。とくにこれといった事情(失恋等)があろうがなかろうが、定期的に海と向き合うことを勝手に男の嗜みと積極的に曲解しているぼくは、先日江ノ島を訪ねました。向かう車内で読んだ円城塔の新刊「Boy’s Surface」は難解すぎて愉快な快作でした。それはそれとして、電車にまつわる本を愛読する鉄っちゃん、「読み鉄」とでもいいましょうか。その素養が若干芽生えております。(時刻表は読めません)お気に入りは小学館文庫「秘境駅へ行こう!」牛山隆信著です。これぞディスカバージャパン!

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牛山 隆信
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14号 たぶん俺のせい

ジタバタしてる間に新年です。「ルーエの伝言」を手にとってくれている皆さん、今年も適度に期待していただけるとありがたいです。

早くもこの春の花粉飛散に戦々恐々としている今日この頃。小学校時代からの友人から意外な報告を受けました。彼は花粉症に関しては、ベテランで出会ったころから患っていたようです。ぼくは成人になってからの若輩ですが、毎春対策が後手にまわり苦しむことになります。で、その彼が言うには、一昨年くらいから特に何の手も打たずに花粉症を卒業することができたそうなんです。驚きました。そして一定量の苦しみ、不遇を味わいきり、ある極みに達するとストンと全てにカタがつくと言います。花粉症に限らず!

その友人とは先日2年ぶりに会ったのですが、話題は2点、仕事の愚痴とおのろけ!彼は持ち前の真面目さと誇り高さが女性には堅苦しさに映り、徹底してそちらに縁がなかった。のも今は昔!

そんな彼や恋するボーイズ&ガールズにお奨めしたいのがこれ。 佐藤真由美「きっと恋のせい」マーブルトロン。歌集です。 佐藤さんは恋愛短歌の偉大なるマエストロですね。この一首。 抱きしめて眠ってくれる人がいて抱きしめられて眠ってしまう ヒャー 。

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13号 一線の位置がよくわかりません

男女の超えてはならない一線というのは、存外あやふやで見つけにくいものです。穂村弘さん的なエッセイを書いてみたいと以前よりおもってまして今実践しているところです。穂村さんはズルい、モテないふりして、的確に母性本能に揺さぶりをかける。(そしてそのことに気がついていても読ませる文才がズルい)比べるのはアレですが、枡野浩一さんのエッセイは、白鳥の水上をゆく姿を水面下も含めてきっちり横から見た図のようで、かろやかに優雅でありながら、同時にジタバタと必死なのです。本業の短歌を一首引用させていただくと、

その昔 あなたのことが大好きで そして今では 嫌いになった

なんとも切実なのである。そんな比べるのがアレな2人と「エロマンガ島の3人」で文壇にふんだんに冷や水を浴びせた芥川賞作家、長嶋有さん(この人の女心の機微を明確にわかっていながら、あまり実地に役立ててない感じをリスペクトする)が共演している本があります。 枡野浩一著「結婚失格」(講談社)です。ゲストの穂村さんと長嶋さんが枡野像にせまるエッセイを寄せていて、興味深いです。長嶋さんはロデオボーイにもかなりせまってますけど。

末筆ではありますが、福永武彦の言葉が突然胸に刺さったので紹介させてください。「愛することは愛されることよりも百倍も尊い」

結婚失格
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枡野 浩一
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12号 MJサイン会秘録

白夜書房さんといえば、最近では破天荒なテレビコマーシャルでも有名ですが、ある世代から上のサブカル者にとっては、破天荒な社長がやってる出版社として認識されているはずです。そうです、80年代に伝説の雑誌「写真時代」を放ち、アラーキーをブレイクさせ「トマソン」を産み、現代のサブカルシーンの重要な一部分を決定づけた末井さんですね。そんな末井さん率いる白夜書房さんから今回、超大御所のサイン会のお話をいただきました。そうです、ほぼメインカルチャーを呑み込んでしまった現代サブカルシーンのマスターピース、みうらじゅん先生ですね。いや、先生という呼称は少し嫌味で不躾ではないだろうか。今回ここでは、あえてこう呼ばせてもらう!じゅんじゅん!!

じゅんじゅんの仕事はあまりにも多岐に渡り、そのどれもが高い完成度で深い余韻があるので、何が代表的なのかと問われると非常に難しい。そこを強いて言えば、「仏像」。これを挙げてもいいかもしれない。いとうせいこう氏と共に諸国の仏像をウォッチング、すなわち見仏してまわった現代の紀行文学の大著「見仏記」は完成度も人気も高い。今回のサイン本は、そのあたりを集大成した「仏像ロック」の世界です。じゅんじゅん責任編集のムック「みうらじゅんマガジン」の2号目として刊行されました。ちなみに1号は「ボブ・ディラン」でした。

自分はお客様の誘導、各種案内をしながらじゅんじゅんがお客様一人一人に対して、丁寧におもしろおかしい事を言っている様子に羨望の眼差しを送っておりました。流石はぼくの心の師匠、場を和ませるオーラが半端じゃない。勝手にじゅんじゅんを心の師匠にしてしまってますが、それは自分だけではないはずです。童貞マインドをキープオンしている輩にとってじゅんじゅんは、あまりに偉大な存在なのです。ぼくの場合は2002年にラフォーレ原宿で催された「描いた!貼った!捜した!みうらじゅんキョーレツ!3本立!」という企画展で、じゅんじゅん曰くライフワークの「エロスクラップ」の現物にふれてしまって以来勝手に心の弟子入りをしてしまった次第です。

サインをしてもらう場所は3階特設会場とさせていただいてますが、要は店内のスペースをこじあけております。じゅんじゅんの座っている席の後ろには、サブカル系のコミックの棚があります。準備も含め半日近く、塞がってしまうので、サイン会が催された日は、ぐっとサブカル系コミックの売上が落ちてしまうのが通例でした。しかしながらそこは、じゅんじゅん。普段と違わぬ数字が出ていたようです。

余談ですが、末井さんの自伝的超快作「素敵なダイナマイトスキャンダル」が入手困難なのは、あまりにおしい。なんとかしましょうよ。

11号 百話語っても大丈夫?

うだるような暑さの日が続いております。ごきげんいかがですか?オフの日には、クーラーのきいた部屋で、ねっころがって、ホラーものでも読みたいところです。避暑としての、怪談という文化は日本独自のものなんでしょうかね?ロウソク吹き消しながら、百の怪異を語らう百物語。粋でいなせな文化だとおもいます。

で、先日買った本。『図説 江戸東京怪異百物語』湯本豪一。カラー図版を多様したヴィジュアルブック。新潮社とんぼの本・平凡社コロナブックスなどある中で、ふくろうの本はとりわけ雑食な感じがして好ましいです。

内容は怪異と言うには、あまりにヘンテコリンな話ばかり。江戸時代って何につけおおらかだったのでは?と訝しんでもしまいます。第4話「足洗邸」草木も眠る丑満時に天井から巨大で汚い剛毛の足が下りてくる。その足を洗えば消え、洗わないと大暴れ。といった具合。変でしょ?図版もおかしくて、でかい足が下りてくるのを待ち構えたかのように、部屋に水を張った桶があり、2人の女のうち1人は、なぜかとても嬉しそう。

なんじゃこりゃの地平に置き去りにされて、少しだけ涼めますよ。

図説 江戸東京怪異百物語 (ふくろうの本)
湯本 豪一
河出書房新社
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10号 おかげさまで10号!

おかげさまで節目の10号をむかえることができました。お客様に感謝、スタッフに感謝、そして出版文化バンザイ!の気持ちです。

で、今回は特別に誰に求められてるわけではないのに、プライベート中のプライベートな部分を公開してみましょう。以下は二〇〇七年七月九日時点でのぼくの積ん読本です。

ミシェル・ウェルベック『素粒子』(ちくま文庫)

素粒子 (ちくま文庫)
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ミシェル ウエルベック
筑摩書房
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伊坂幸太郎『グラスホッパー』(角川文庫)

グラスホッパー (角川文庫)
伊坂 幸太郎
角川書店
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福岡伸一『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
福岡 伸一
講談社
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内田樹『寝ながら学べる構造主義』(文春文庫)

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)
内田 樹
文藝春秋
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萩尾望都『ウは宇宙船のウ』(小学館)

ウは宇宙船のウ (小学館文庫)
萩尾 望都
小学館
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野崎昭弘『詭弁論理学』(中公新書)

詭弁論理学 (中公新書 (448))
野崎 昭弘
中央公論新社
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筒井康隆『俗物図鑑』(新潮文庫)

俗物図鑑 (新潮文庫)
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筒井 康隆
新潮社
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ブローティガン『愛のゆくえ』(ハヤカワepi)

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)
リチャード ブローティガン
早川書房
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ボルヘス『伝奇集』(岩波文庫)

伝奇集 (岩波文庫)
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J.L. ボルヘス
岩波書店
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赤瀬川原平『櫻画報大全』(新潮文庫。絶版)

櫻画報大全
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赤瀬川 原平
新潮社
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宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫)

忘れられた日本人 (岩波文庫)
宮本 常一
岩波書店
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「あなたのハートに何が残りましたか?」

8号 西荻の風とシネマ バベル

今回はスタッフ総力をあげての映画特集号でございます。

概ねどんな映画からもなんらかの感銘を受ける質なのですが、先日鑑賞した『バベル』にはズーンとただ圧倒されてしまって、呆然とスタッフロールを眺めてしまいました。今回とりあげる映画は我々本屋だし、原作が存在するものにしようと協議しました。『バベル』の原作……もちろん「聖書」っすよ!ってことで。

キャスティング、ロケーション(舞台はモロッコ・メキシコ・日本)にしろ豪華で賞レースでも話題をふりまいた飾り物の多い作品ですが、内容は良い意味で非常に単館くさいです。DVDが出てから口コミで火がつき、ロードショウで観たことを誇る、といった流れもアリかとおもいました。

三つのエピソードが時系列をずらしながら並行して語られます。とりわけ印象深いのは、やはり日本編でしょう。聾唖の高校生を演じた菊地凛子の迫力には目をみはりますよ。登場すると画面がピリピリするようです。聾唖者と身近に接してている知人は、この頃のフィクションでは気性の荒い聾唖者ばかりが描かれると嘆いてました。難しい問題です。前置きが長くて紙面が尽きちゃいましたが、映画って観たあとあーだこーだ言い合うのが楽しいですよね。では、また。

バベル スタンダードエディション [DVD]
ギャガ・コミュニケーションズ (2007-11-02)
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7号 エイプリル・ルール

ぼくの大好きな詩人の言葉で「奇跡を起こして、寝過ぎだと言え」というのがあります。起こさないと起きてくれない奇跡、寝ても寝ても眠たい季節がやってきました。いま、足元で蜘蛛が欠伸をしました。

4月の職場には華があります。出版社から新入社員(フレッシャーズ)が書店研修で入れ替わり立ち代わりやってくるからです。限られた期間で伝えられることは、多くありません。毎年ちょっとした歯痒さを胸に自問します。「自分にとって書店とはなんぞや」書店で働くとはどういうことか?理屈こねないで、見る前に跳んでいればいいわけですが、その飛距離を確かめてみたい。店はステージであり、日々更新されるインスタレーション作品だともおもう。ルーエは演じがいのあるステージであり、多彩なコラージュ素材に恵まれた常に未完成の大作です。

ここ最近何件か立て続けに、取材が入りました。小心なくせに目立ちたがる質なので、あれこれ受けて、すっかりルーエの宣伝塔気取りになってしまいました。ボスが突然テレビCM打つぞとか言い出したら、きっとエプロン着て出ちゃうんだろうなと妄想したりします。

さておいて、「ルーエの伝言」もちゃっかり7号までこぎつけましたね。〆切りに原稿がそろった試しがないわりにはよくやってます。(編集空犬さん、いつもごめん!)寄稿者はみなほぼ同時期に勤め出した愉快な仲間です。先日突発性5月病を患った際、みんな励ましてくれてありがとね!!

6号 コロコロコミックと云うカルチャー

自分の人格形成に最も大きな影響を及ぼした雑誌は何かと問われたりしたら、胸を張って『コロコロコミック』(小学館)であると答えよう。小学生をやっていた時分は15日の発売日が待ち遠しくて仕方なかった。ある年の親からの誕生日プレゼントは、コロコロを一年間、発売日に買ってもらうという契約だった。15日が来る度に結局は親に催促しなくてはならないので、あまり効率がよろしくない契約だったのも事実。それほどまでにぼく(やぼくと同世代の男子たち)の心を鷲掴んだコロコロの魅力(魔力)とは何だったのだろう。

とりあえずぼくにとってのコロコロ重要語句を列挙してみよう。順不同で。ビックリマン・ミニ四駆・高橋名人・スターソルジャー・かっとばせキヨハラくん・あまいぞ男吾・つるピカはげ丸・おぼっちゃまくん・超人キンタマン・ファミコンロッキー・がんばれ!キッカーズ……全てに詳細な解説を付けたいけど、興味ある人には口頭で伝えますのでここでは、はしょる。で、団塊ジュニアの消費意欲がうんたらかんたら風の世代論的なものを展開したかったんだけど、全然切り口が思いつかない。

コロコロは大人が本気で子供を騙してやろうと牙をむいていたような雑誌だった気がする。過剰な大人の影がちらほらと垣間見える。ダッシュ四駆郎の影にミニ四ファイターが。十六連射の高橋名人が。おぼっちゃまくんの小林よりのりが。『コロコロ伝説』というパートワークが近日満を持して創刊される。

熱血!! コロコロ伝説 vol.1 1977-1978 (ワンダーライフスペシャル コロコロ30周年シリーズ)

小学館
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5号 都市伝説の穴

都市伝説がちょっとしたブームになっているようです。芸人さん(ハローバイバイ)の影響によるところ大なようですが、ぼく自身の中ではMMRをリアルタイムで読んでいたころから、連綿とマイブームであり続けております。このところ学研の超現実雑誌「ムー」のチェックを怠りがちでしたので、改めて押さえとかないとな。「ムー」と「ニュートン」は良く似ています。「みうらじゅん」と「横尾忠則」が似ているように。「ムー」の記事と「ニュートン」の記事が一部入れ替わっていても、大筋に影響はないような気がします。「ムー」のタイムパラドックスの記事と「ニュートン」の量子論の記事が似通っているのは発見でした。

ハローバイバイから都市伝説に興味を持たれた方におすすめの本を紹介いたしましょう。絶版なので古本屋さんで探していただきたいもので恐縮です。木原浩勝『都市の穴』(双葉文庫)新耳袋でおなじみのあの木原さんの著作です。これ1冊でまるわかりの良書なので絶版はあまりに惜しい。我想う日本一怖い短編小説「くだんのはは」(小松左京)でおなじみの牛頭人身の伝承的怪物くだんを取材した項が読ませますね。

都市の穴 (双葉文庫)
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木原 浩勝 岡島 正晃 市ヶ谷 ハジメ
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4号 すさまじいつぶやき

自由律俳句とゆうジャンルがあります。俳句のお約束である575の節にとらわれず、季語を盛り込むことからも解放されたやんちゃな定型(?)詩です。その日本代表ツートップは誰が何と言おうと種田山頭火と尾崎放哉です。山頭火が生きることの喜怒哀楽をワイルドにしたためたのに対し、放哉は虚脱感を露に呟きました。生涯や生い立ちについては、字数とぼくの勉強不足の都合上、興味があれば各自調べてください。

ぼくが特にリスペクトするのが、尾崎放哉です。今放哉の句を堪能するなら、春陽堂さんの放哉文庫になります。春陽堂さんの文庫というと、多賀新さんの銅板画が炸裂しまくってる江戸川乱歩が印象的ですが、この手のもあるんですね。ちなみに当店ではドン・ウーが乱歩全点平積みを敢行中です。

「咳をしても一人」
「たった一人になり切って夕空」
「入れものが無い両手で受ける」
「春の山のうしろからけむりが出だした」

放哉の代表的な句です。読者を呆然とさせてくれますね。そんな放哉へのオマージュを込めたぼくの句で結ばせていただきます。

「フッきれても一人」

尾崎放哉句集 (放哉文庫)
尾崎 放哉
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3号 あるいは編集後記

おかげさまで3号目をお届けいたします。早くも文庫化してしまいました。紙50%オフで地球への配慮を実現しました。そして製本作業は一工程増えました。

これを書いているのは平成18年の12月です。メディアが今年一年を総括するようなコンテンツを流しはじめています。京都の寺の住職がでかい筆で「命」と大書きしていました。フットワークと頭がお軽いメディアは速攻でTIMに取材をしておりました。ぼく自身、今年一年を漢字一字で表現すると「働」となりましょうか。自分を褒めてあげたいのです。

今年は例年に比べ読んだ本が少ないような気がしますが、それでもざっとどんな本に出会った年だったのか検証してみましょう。

伊坂幸太郎『終末のフール』(集英社)構成が見事な傑作でした。帯コメントに採用されて浮き足立ちました。

終末のフール (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
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湯本豪一『百鬼夜行絵巻』(小学館)妖怪絵巻の最高峰、大徳寺真珠庵の「百鬼夜行絵巻」をフルで楽しめる妖怪ファン待望の画集でした。

百鬼夜行絵巻―妖怪たちが騒ぎだす (アートセレクション)
湯本 豪一
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都築響一『夜露死苦現代詩』(新潮社)現代詩業界に冷や水を浴びせる快著でした。市井の言葉にこそ真のポエジィが宿っているとゆう事実を証明させられ少しうろたえてしまいました。

夜露死苦現代詩
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都築 響一
新潮社
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堀江敏幸『いつか八王子駅で』(新潮文庫)滋味溢れる名品でした。のんびりした下町の風情が妙にうらやましくなりました。

いつか王子駅で (新潮文庫)
堀江 敏幸
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2号 あるいは編集後記

2号目にしていきなりリニューアルしてみました。縦書きになって読みやすくなったかとおもわれますので、みなさんお誘い合わせのうえ手にとり、願わくば読んでいただき、ブックス・ルーエをご贔屓いただければ、スタッフ一同嬉しくて小躍りいたします。

今年もやってきてしまいましたね、クリスマス。恋人たちの季節です。ぼくは24日も25日も一生懸命働くつもりです。そんなオンリーロンリークリスマスに最適な本をご紹介いたしましょう。やまだないと『ビューティフル・ワールド』(祥伝社)です。直訳するとわが国の宰相が書き下ろした著作のようになってしまうタイトルのコミックです。ちょっとずれた世界でかなりずれたキャラクター達が織り成す詩的な物語です。誰もが誰かを必要としていて、その誰かがこの世界にいるってだけで全ては美しいのではないでしょうか。最終話のアレックスの選択はとてつもなく残酷でとてつもなく美しい。

この本はかつて奇跡的にオンリーロンリーな身ではなかった頃に、相方にすすめられて読みました。改めて読んで切なさもひとしおでございます。とりあえずこれを読んでキュンとしない人とはお付き合いできないと豪語しておきます。

「オレは詩人か小説家になろうと思う。または音楽家写真家なんか。だってあまりにも美しいだろう。この美しい世界をオレはぶらぶら写しとる日々。目や言葉、口笛なんかで」
「あたしは地球から落っこちそうになるの。ムキ出しなのよあたしたち。宇宙にムキ出し」
ビューティフル・ワールド (フィールコミックスゴールド み)
やまだ ないと
祥伝社
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