本格リレーミステリー「ルーエ連続殺人事件」

第3回 芋福

はあ、はあ、はあ、亀柱は薄暗い迷路じみた館の中をひた走る。外は雷を伴った豪雨が降り注いでいる。肺が裂けそうだ。足が今にも攣りそうだ。普段から運動しなかった自分を恨めしく思う。でも走らないとナニカが追ってきている。何でこんなことになったんだ?そもそもアレはなんなんだ?人と呼ぶには小さすぎるし、かといって人形というわけでは無さそうだ。人形があんな事できるはずがない。うっぷ。自分で言ってさっきの光景を思い出した。気持ちワリィ・・・

本の引き取り人は偏屈そうで傲慢な男だった。名を猪俣といい、年は40過ぎたぐらいで、背丈は大柄、どっぷりと脂肪の乗った腹、いかにも成金といった感じで何本も指輪をしていた。確かに、発送ミスした自分が悪いし、その点でお客様に迷惑をかけた。あんな嫌味なことを言わなくてもいいじゃないかとも憤慨したのも確かだ。しかし、かといってあんな死に方しなくてもいいはずだ・・・。 最初はよくわからなかった。脂が腐ったような血の匂いとあの巨体が煮こごりのようにつめ込められた猪俣。彼はストッカーに詰め込められて死んでいた。今から思えばなんで、一般家庭にストッカーつきの棚が?そもそも物理的にあの巨体が入らないだろ?と色色と考えれたのだろうが、ただただ唖然、そして混乱するばかりだった。そこを襲われた。いきなり電気が消え、小柄なナニカが体にぶつかってきた。はじめてみた死体にびびっていたこともあって、ナニカを確認することなく我々はその場を逃げ出してしまった。気持ちが悪い。吐きそうだ。吐いてしまえば楽になるのだろうが、足を止めれば、アレがやってくる。ヤバイヤバイヤバイ。いったいどうすれば・・とそこに 「もう追ってこないみたいですよ」 女性の声。鹿野さんだ。とっさに手を取って逃げてきたらしい。気付かなかった。あわてて手を離し、ちょっともったいなかったかな?と一瞬後悔する。「兎田さんたちは大丈夫でしょうか?」 いつの間にかはぐれてしまったようだ。彼なら大丈夫、なんとかしてくれる、不思議とそんな雰囲気を醸し出してる人だ。と伝える。彼女は怪訝そうな顔をしたが、実際そう感じるのだからしかたない。となると、今、最優先にやるべきことは、兎田さんや他の住人と合流、そして通報かな?やるべきことがわかってくるとだんだんと冷静になれてきた。 とりあえず助かった・・・実はこれ以上は体力の限界だ。膝がガクガクしているのを悟られないように、広間の方向を聞いて歩き出す。ホント、一体なんでこんな目にあってるのだろう。ただ発注ミスした商品を届けに着ただけなのに・・・。この屋敷に着いたときのことを思い出してみた。

第2回 ドン・ウー

とうの昔に太陽の光は亀柱純の水分を奪っていた。駅前でタクシーをひろってからもう、四時間になる。とは言っても、実際タクシーに乗っていたのは一時間程である。単純な計算だが山道を三時間近く歩いていることになる。空になったペットボトルを鞄にしまいながら亀柱はと尋ねた。

「兎田さん、一体いつ着くんですかね?」
「僕が知ってるわけないだろう。そもそも君が間違って本を発送したのが原因だろ? 文句言わずに歩きなよ」
「すいません。こんな事になるなんて思いもよらなくて……」

兎田は呆れた様子で、再び歩き始めた。兎田は亀柱のバイト先の先輩である。肩までかかる長髪を真ん中で分けていて、ベルボトムにロックシャツという時代錯誤気味のいでたちである。この姿でそのまま店先に立つものだから、お客さんの第一印象はもちろん良くない。どういった理由でこの服装なのか亀柱にはまったく分からないが、あまりに堂々とした態度のため理由は訊けずにいる。しかも、その方面の音楽にはまったくといっていいほど通じていないらしい。そう考えると亀林はあらためて兎田という人物についてほとんど知らないことに気づく。

ただ一つ分かっていることは本の知識は相当のものだということだ。これだけは間違えない。勤め始めてまだ数ヶ月しかたたないが、それだけは亀柱にも分かる。兎田は非常に少ない情報から目当ての本をあっさり見つけてしまうのだ。しかも、それだけに留まらず、こっちの方が分かり易いだとか、この作家も同じ系統の作品を書いているとか、ありったけのお土産を用意しているのである。亀柱はもう本の検索に関しては仕事を放棄している。どう考えても兎田に検索してもらった方が環境に優しい。

「あれじゃないかな」先を歩いていた兎田が坂道の一番上から振り返って亀柱を呼ぶ。
「助かった。喉はカラカラだし、もう歩きたくないですよ」

亀柱が兎田に追いついて見ると、目の前は円形の小さな盆地になっていた。学校の運動場の四倍ほどの大きさで、高い木はなく草原のようになっている。ただ、その草原の中心に奇妙なものが置かれている。あまりにミステリ的何か。ミステリ的建築物。まず、建物全体がクリーム色に近い色で塗りたくられている。さらに形だが、三階建てほどの高さの円形の建物を中心に東西南北に同じ高さの長方形の箱がくっついている。住宅としては相当変だ。どう考えても人が暮らし易い設計になっているとは思えない。大体、ミステリ栄えしすぎてないか?絶対にあの円形の部分にテーブルがあり、長方形部分は個室になっているだろうと想像して、亀柱は苦笑してしまう。あれこれ考えているうちに兎田は坂を下りはじめている。

「兎田さん、ほんとに殺人なんて起こるんですかね?あまりにも出来すぎた状況で現実感がないんですけど」
「状況がどうであれ、事件を起こすって言ってる人がいるんだから、それは起きるんだと僕は思うけど」
「それはそうですけど。殺人予告だなんて……」
陽は傾き始めていたが、いまだ建物から光はみえない。

第1回 花本武

「先輩、I波書店の本はどうして返品できないんですか?」
「それは今度話す」
「はい」
「ところで亀柱君、この書店には七つの不思議な話があるのををご存知かな?」
「いえ知りません、昨日からバイト始めたばかりですから」
「そうか、じゃあ今度話す」
「はい、どちらでもいいですけど」
「エレベーターがこわいのは一人のときより二人のときだ」
「それが何か?」

シーン2 エレベーター
「おれは247階だけど君は?」
「え、え、え〜と……カフカの本を探してるんですけど……」
「どうした?」
「はい、はい、すいません! 間違えて三毛猫シリーズ第一作を発送しちゃったんです!」
「何と?」
「カフカの城です」
「全然違うじゃん」
「はい、はい! ほんとすいません!」

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